(レポート・論文準備)「調べる読書」で「問い」を検証

大出敦 著『クリティカル・リーディング入門』
(慶応義塾大学出版会、2015年)

 これまで齋藤孝さんの『『究極 読書の全技術』や本要約チャンネルさんの『「読む」だけで終わりにしない読書術』などから本の読み方、読書の仕方を学んできました。ただ、大学生がレポートや卒業論文を作成するときには、もう少しタイプの異なる読書の仕方が必要になるのではないかと思います。つまり、レポートや論文を書くための情報を集める、「調べる」タイプの読書の仕方です。この読書術を「クリティカル・リーディング」という用語で解説した本書を読んでみました。
本書の著者、大出敦さんはフランス文学を専門とする研究者です。本書のサブタイトルは「人文系のための読書レッスン」です。
 本書を読んで私が特に勉強になったのは以下の4点です。

1. レポート・論文と読書感想文との違い

 本書の主なテーマである「クリティカル・リーディング」とは、端的にいうと「問い」に基づいて、さまざまな文献を検証する読み方のことです(42ページ)。ところが大学生が陥りがちなのが「問い」を欠落させたままの読書です(25ページ)。
その原因はおそらく「問い」を立てるという行為に慣れていないこと。そして小中高校までの学校教育で、「問い」を立てるという機会があまりなかったからだと私は思います。「問い」は教師が与えてくれるか、あらかじめ教科書に「設問」として書かれているか、どちらかが圧倒的に多く、生徒が自ら「問い」を立てるということをトレーニングしてこなかったと思います。ただ、近年では「総合的な探究の時間」などで「問い」を立てるということを重視するようになってきました。
 私は読書感想文も嫌いではなく、読書に関連した重要なアウトプットの方法だと考えています。ただ、読書感想文は「問い」を立てることを重視していないことは確かで、読者としての私がどう感じたのか、その本から私がどういうことを考えたのかを重視しています。
 本書は読書感想文とレポート・論文との違いを「問い」を重視するかどうかという点において強調しています。とても勉強になりました。

2. 帰納的発想が有効

 「演繹」と「帰納」という言葉があります。演繹は全体がまずあって、そこから部分を論証する考え方です。原則・原理や普遍的なものを示したうえで個々の現象が当てはまるのかどうかを検証するのが演繹。
 一方、帰納は個々の現象や事例から普遍的な原則・原理、そして全体を推測する考え方です。大出さんは、

「人文科学系のテキストをクリティカルに読んでいくときには、まずこの帰納的な思考の方が創造的な結果をもたらすと思います」

と述べています(93ページ)。さまざまな文献に出てくる事例を検証したうえで、全体としての原則・原理はこうなっているという結論に至る、というタイプの論を展開するとレポート・論文としての質が高まりやすいということだと思います。

3. 一次資料と二次資料

 一次資料とは、「問い」に対して直接的に検証の対象にした資料のことです。これに対して、二次資料とは、検証する際に参考にした文献のことです(114ページ)。これは基本的なことかもしれませんが、やはり重要な用語上の区別だと思いました。

4. 先行研究との距離を確かめる

 本書では「レポートなどでは定説としていわれているような学説などに目配りをしていて、そうした成果も踏まえていることを、簡単でもよいので触れる必要があります」と述べられています(180ページ)。定説となっているような学説は「先行研究」の一部です。
 自分が展開する説が先行研究と、どのような関係にあるのかを意識しながらレポート・論文を書くと、レベルが高いものが書けると思います。つまり、先行研究の延長線上に自分がいるのか、先行研究に疑問を呈しているのか。もちろん、これを確かめるためには先行研究をしっかり読み込む必要があります。
 本書には「クリティカル・リーディング」の原則的な考え方が具体例をもとに詳しく解説されていて、とても勉強になりました。

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