読書家なら一度はチャレンジ! 夢野久作の奇書『ドクラ・マグラ』
夢野久作 著『ドグラ・マグラ』
(kindle青空文庫、初版1935年)
本書について私は精神科医・樺沢紫苑さんが著書の中で推薦していたので読んでみました。アマゾンkindleの青空文庫に入っていて無料で読めました。
本書を読むのに通勤電車の往復を利用して丸2ヶ月かかりました。全部で679ページあり、読むのにとても苦労しました。
そしてストーリーも複雑で、全体として何が言いたいのかつかむのにとても骨が折れました。何とか最後まで読み切ることができましたが、今までにない読書経験をしたように思います。読み終わった今でも、作者・夢野久作さんが何を言いたかったのか、よく理解できていないような気がしています。
ただ、分かったことには以下のようなことがありました。
その1つは、戦前の精神病の治療は極めて未発達で、家庭では患者を座敷牢のようなところに閉じ込めたり、病院では鍵のかかる独房のような部屋に閉じ込めたりすることが多かった状況の中で、本書では「解放治療場」を描いて、患者を自由に行動させるという、当時としては斬新な治療法が提示されています。ここに当時の精神科の治療に対する作者・夢野久作さんの批判精神が表現されているのではないかと思いました。
2つ目は、精神病の治療は、患者の「記憶」と向き合うことになるということに気づきました。本書のストーリーとして、九州帝国大学附属の精神病院に主人公・呉一郎が入院し、自分が記憶喪失になっていて、自分の素性を思い出すことを、正木教授から強要されているという場面が長く続きます。そして、現在は記憶を失っているが、過去に殺人事件を起こしたのではないかという疑いがかけられています。つまり、患者の「記憶」と向き合う精神病の治療が殺人事件の解決という一種の推理小説、探偵小説にもなっている点がとても面白いと思いました。そして、こういうストーリーは、戦後の推理小説にもありそうな気がしました。
3つ目は、途中で出てくる「チャカポコチャカポコ」という節回しに乗せて歌われる精神病院への批判が面白かったということです。私はこの小説の映画版も観て「予習」していました。映画でも、「チャカポコチャカポコ」を大学の教室で歌う先生の様子が、何だかお祭り的で面白かったのですが、文章で読んでみても、その部分はとても楽しく読めました。ストーリーをつかむのが大変な作品だけに、この「チャカポコチャカポコ」の歌がかなり長く続くので、読み続ける時の助けになりました。
樺沢さんは著書『これからの生き方図鑑』で、この『ドグラ・マグラ』を紹介し、精神医学の奥深さを感じ取り、精神科医になる決意をしたと述べています。そして、「最後まで読むと頭がおかしくなるといわれる『ドクラ・マグラ』ですが、幸いというべきか、私はそうはなりませんでした」とも述べています。私も最後まで読んでしまいました。さて、頭はおかしくなるでしょうか? 今のところ、そうはなっていないようです。