ポスターが「プロパガンダ」した時代

田島奈都子 著『プロパガンダ・ポスターにみる日本の戦争』
(勉誠出版、2016年)

 2022年、ウクライナ侵攻を開始したロシアですが、国内ではこの侵攻を正当化し国威(こくい)発揚(はつよう)するためにテレビ放送を通じて「プロパガンダ」を盛んに行っているようです。戦時の「プロパガンダ」とはどのようなものなのか、第二次世界大戦時の日本の場合を事例として考えてみたいと思い、本書を読んでみました。

デザイン史からみるポスター

 本書の編著者、田島奈都子さんは、東京の青梅市立美術館の学芸員で特に近代日本のポスターを中心とするデザイン史の研究をされています。本書は、日中戦争が開始された1937年から第二次世界大戦が終結する1945年までの間に政府が中心となって製作したポスター135枚が解説とともに掲載されています。これらのポスターは政府から全国の自治体に配布されましたが、多くの場合、戦争終結と同時に焼却されました。日本政府が国威発揚のために製作したので、その内容をGHQに咎(とが)められることを恐れて焼却命令が出されたのです。本書に掲載されたポスターは長野県南部の阿智村で、役場関係者の自宅土蔵の天井裏に隠されていたものです(5ページ)。戦時期の社会状況を知るためには、とても貴重な史料だと思いました。

ねらいは戦意高揚や資金調達

 本書を読んで勉強になったこととして、まず「プロパガンダ」の内容です。この言葉の意味については、辞書をひくと「宣伝」ということだと分かりますが、第二次世界大戦の時の日本の場合では、「物資の節約や政府への提供」「労働力の確保」「戦意を高揚させる」「前線の兵士や残された家族に対する敬意の呼びかけ」「軍事的な記念日を祝う」などが「宣伝」の具体的な内容だったということが分かりました(6ページ)。また、貯金を促したり、政府が発行する国債(こくさい)を購入するように呼びかけたり、といった内容もあったということが少し意外でした。政府への資金提供のために国債購入をポスターで呼びかけていたことは知りませんでした。

 ポスターの図柄については本書を見ていただきたいと思いますが、ここではポスターの見出しやキャッチコピーをいくつか紹介したいと思います。

「労務動員――行け!銃後の戦線 重工業へ――」

「もっと働きもっと切り詰め 断じて360億を貯蓄せむ」

「志那事変国債――無駄を省いて国債報国――」

「強く育てよ御国の為に」

「大東亜戦争国債――勝利だ戦費だ国債だ――」

「奉公米に感謝して一層節米しませう」

総力戦の様子が伝わる

 どれも、この時代の状況がにじみ出ているように思えました。「総力戦」という言葉がありますが、戦っているのは前線の兵隊だけではなく、それを後方で支える国民生活全体が影響を受けていたことが分かりました。それは重工業で働くことや、切り詰める生活、政府が発行する国債を買って政府に資金提供すること、丈夫な兵士を育てる子育てなど多方面にわたっていて、もしこの時代に生まれていたら苦労が大きかっただろうなと思いました。また、「奉公米」とは消費量が多い都市部に、農村から備蓄米や余剰米を提供して再配分されたお米のことだそうです(82ページ)。こういう「節米運動」というものがあったということを今まで知りませんでしたので、とても勉強になりました。


 今ではSNSが発達してウクライナでの戦闘の様子が映像としてたくさん発信されていて、私たちは毎日のように様子を知ることができます。しかし、第二次世界大戦の時にはSNSなどはなかったのでポスターなどが「プロパガンダ」の道具になっていたのだと思います。しかし、大事なのは真実を知って判断できるようになることで、「プロパガンダ」に騙(だま)されたり、踊らされたりしないように気をつけないといけないと思いました。

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