「ブラック企業」ならぬ「ブラック生徒指導」とは?

川原茂雄 著『ブラック生徒指導 ―― 理不尽から当たり前の指導へ』
(海象社、2020年

 ブラック企業という言葉はよく聞きますが、ブラック生徒指導とは何なのか、題名にひかれました。以前、『日米比較を通して考えるこれからの生徒指導』という本を読み、日本の教員は仕事の範囲が広く、勤務時間が長いということが分かりましたので、今回はさらに生徒指導の内容について批判的に検討した本だと思い、本書を読んでみました。

35年の教員生活の違和感

 本書の著者、川原茂雄さんは北海道の高校教諭として社会科(公民科)を35年間教え、その後、大学で教育学の研究をされています。本書の「はじめに」によると、川原さん自身が「生徒指導」に対して抱いていた違和感と疑問について、これまでの考えをまとめたのが本書です(3ページ)。川原さんは、「今の学校で最もブラックなのは『生徒指導』ではないでしょうか」と述べています。
 本書には、生徒指導に対する川原さんの批判的な指摘が並んでいます。たとえば、

「体罰はどんな教師でもやってしまう」

「体罰はよほどのことがない限り発覚しない」

「校門の前で『立ち止まった』子どもの権利条約」

などです。子どもの権利条約は1989年に国連で採択され、子どもの人権を大人の人権と同様に尊重する理念を具体化したものです(97ページ)。日本政府は1994年に、この条約を批准(ひじゅん)しました。この条約の考え方からすると、特に日本の校則の内容には問題が大きいことが浮き彫りになってしまいます。そして、定期的に受ける「子どもの権利委員会」の審査で、この点を繰り返し指摘されることとなっています(97ページ)。これが「校門の前で『立ち止まった』子どもの権利条約」という言葉の意味です。

1980年代に横行した管理主義

 本書を読んで思い出したのですが、私が小学校、中学校、高校時代を過ごした1980年代というには、校内暴力の時代、管理主義教育の時代でした。管理主義教育の特徴は、①校則による頭髪・服装などの取り締まり、②体罰を含む厳しい指導、③成績や評価などによる脅しによって、教師が児童生徒に対して強制的に言うことをきかせようとすることです(140ページ)。1980年代はまさにこういう生徒指導が行われていましたが、現在「ブラック生徒指導」と呼ばれている厳しい指導は、1980年代の管理主義教育が原型となっているのではないかと思いました。

部活動が「ブラック生徒指導」の温床

 そして、現在の「ブラック生徒指導」は特に部活動の場面によく表れているという川原さんの指摘に「なるほど」と思いました。川原さんは、

「部活動はブラックな指導の温床」

「部活動で横行する教師の暴力・暴言」

「部活動顧問の独裁化」

などの言葉で部活動のあり方を批判しています。

「ホワイトな生徒指導」を模索して

 本書の終わりのほうで、川原さんは「ブラックな生徒指導をホワイトなものにするためには、まずは今の学校の中で当たり前とされていることをもう一度見直して、社会一般の当たり前と同じものにするべきではないでしょうか」と述べています(200ページ)。その通りではないかと思いました。
 本書を読んで、中学が高校の部活動のあり方というのは問題が多いということが分かりました。体罰も部活動の場面で多く行われているようです。本書で川原さんが指摘している「部活動顧問の独裁化」というのも大きな問題です。これらの点に、今後も注目していきたいと思いました。

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