「筆記療法」を応用して自己肯定感を高める

中島輝 著『書くだけで人生が変わる 自己肯定感ノート』
(SBクリエイティブ株式会社、2019年)

 自己肯定感が大事というのはよく聞きますが、あまり詳しく考えたことはありませんでした。しかし、気分が沈むとか、自信がなくなるということは今までも経験してきて、その状態は、自己肯定感が低いということなのかなと思っていました。もう少し自己肯定感のことを詳しく知りたいと思い、本書を読んでみました。


 本書の著者、中島輝(なかしま・てる)さんは心理カウンセラーをされています。本書の著者紹介欄には、9歳ごろからメンタル面の疾患に苦しみながら、それを独学でカウンセリングやコーチングを学んで克服してこられた様子が記されています。
 本書の冒頭で中島さんは、次のように述べています。

自己肯定感を高めるもっとも簡単で確実な方法。

それは「書く」ことです(8ページ)。

 そして、「書く」ことには「アウトプット効果」「見える化効果」「インプット効果」という3つの効果があると述べています(9ページ)。「アウトプット効果」とは、感情や思いを吐き出すこと。「見える化効果」とは、自分の本心を客観視できるということ。「インプット効果」とは、書かれた内容を目で確認して、記憶に定着させることです。私は、自分の感情や思いを「書く」ことに、このような3つの効果があるということを明確に意識したことがありませんでした。

「筆記療法」の応用「スリー・グッド・シングス」

 中島さんは、「書く」という方法の一例として「スリー・グッド・シングス」という方法を紹介しています。ノートやメモ帳に「今日よかったこと」を3つ書き出すという方法です。心理学者のジェームズ・W・ペネベーカー博士は「筆記療法」という治療法を確立したそうですが、心理学の世界では「書く」ことの治療効果は、かなり知られているようです(99ページ)。中島さんご自身がカウンセリングをしてきた1万5000人の患者さんに「書く」ことを行ってもらったところ、その回復率は95%だそうです(88ページ)。かなり高い回復率だと思いました。


 本書で紹介されている「書く」方法で、私が気になったのは先ほどの「スリー・グッド・シングス」のほかにあと2つあります。

「ライフチャート」で現状を「見える化」

 1つ目は「ライフチャート」というもので、人生のさまざまなテーマを大きく「大事な人のこと」「お金のこと」「人間関係のこと」「健康のこと」「仕事のこと」「家族のこと」「遊びのこと」などに分類し、それがどの程度うまくいっているかを10段階で評価して、点数を記入するというものです。以前、樋口圭哉さんの『目標達成のための手帳術』を読んだとき、箇条書きで書き出したウィッシュ・リストを8つの領域に分類するということが紹介されていて、とても興味深かったのですが、中島さんの本書では、「ライフチャート」で現状を「見える化」した後に、将来、そのテーマでどうなりたいか、どうしたいかを書き加えるという方法を紹介しています(186ページ)。この方法も、とても興味深いと思いました。

「習慣トラッカー」で定着をはかる

 もう1つの「書く」方法は「習慣トラッカー」です。これは、これから始めたいこと、やめたいことなど、習慣にしたいことを箇条書きでリストアップして、できたかどうかを毎日チェックする一覧表です(204ページ)。これによって「できた」という小さな自信を積み上げるというのは、とても大事なことだと思いました。

セロトニン分泌量は民族によって異なるか?

 さて、本書を読んで、さらに詳しく知りたいと思ったのは、「日本人は欧米人に比べてセロトニン分泌量がすくないため、そのその不安感が強い」という中島さんの指摘です(250ページ)。また、中島さんは「日本人は遺伝的に楽観的に物事を考えることが苦手な民族」とも指摘しています。これは心理学者の間では、よく知られているのかもしれませんが、私はあまり聞いたことがありませんでした。今後、もっと調べてみたい論点だと思いました。


 本書は、「書く」ことによって自分の今の状態を把握し、客観視し、改善策やポジティブな方向性を見出して行動し、小さな自信を積み上げていくことができるということを、具体例を紹介しながら論じた本です。自己肯定感を高めるためのカギとなるポイントが「書く」ということに定められていて、とても分かりやすく解説されている本で、とても勉強になりました。

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