AI化の波が生活や教育に与える影響

渡部信一 著『AI✕データ時代の「教育」戦略』
(大修館書店、2021年)

 AIに関しては倉嶌洋輔さんの『AI時代のキャリア生存戦略』を読んだことがありましたが、これから本格的なAI時代が来ることが予想されているので、もっとAIについて知りたいと思い本書を読むことにしました。


 本書の著者、渡部信一(わたべ・しんいち)さんは教育学を専門とする研究者です。AIやロボットの進化が教育に与える影響について多くの著作があります。


 AIに関する私の予備知識が少ないので初歩的なことにも驚いてしまうところがありますが、本書を読んでAIが進化して身近な生活の中に実用化される日はとても近いと感じました。それを感じさせる事例が本書に2つ書かれていました。

Amazon Goの会計とデータ集積

 事例の1つは、アメリカにあるAmazonの実店舗では、客がレジを通らずに買い物ができるシステムがAIを活用しながら、すでに営業開始されているそうです(41ページ)。これは「Amazon Go」という店舗です。客はあらかじめ専用アプリのダウンロード、クレジットカードの情報、住所の登録しておき、出入り口にある「改札」にスマホをかざして店に入場、その後は商品を持って「改札」にスマホをかざして精算されるというシステムです。「Amazon Go」の店舗には天井に多数のカメラ、商品棚には重さや音を計測するセンサーとマイクが配置されており、そこから得られるデータをAIが解析して、消費者の買い物の傾向などの情報を集積していこうとしています。客にとっては会計の時間を短縮できるのがメリットですが、Amazonにとってはレジ打ちの人件費を節約できるうえに、データの集積によって安定した売り上げにつなげようとしているようです。店内のカメラやマイクでいろいろと監視されながら買い物をするのは少し怖い感じがするのですが、このシステムがいずれ日本に導入されていくと、たいして怖さも感じなくなるのでしょうか。

スウェーデンではマイクロチップの人体埋め込みが

 事例の2つ目は、体内にマイクロチップを埋め込んで鉄道などの利用管理をすることが、すでに2017年からスウェーデンでは始まっているそうです(48ページ)。これもAIによる利用者データの集積が行われています。マイクロチップが人体に悪影響を及ぼさないか、これも少し怖さを感じるのですが、今のところ大きな問題にはなっていないようです。

AIは「学びの個人化」を加速させる!?

 さて、本格的なAI時代を前にして、どのような変化が教育に起こるのでしょうか? 渡部さんの展望では、新型コロナウイルスの感染拡大によって「テレワーク」「働き方改革」が叫ばれた流れに乗って、「オンライン教育」がいっそう加速し、これとAIの活用が結びつくことがポイントだということです(165ページ)。これからの「withコロナ」「afterコロナ」の時代は、会社や学校という集団から個人(私)へという転換が起こり、個人の好きな時間、好きな場所、好きなテーマを学ぶことができるようになるというメリットを渡部さんはあげています。そして、情報をただ頭の中に蓄積するということではなく、「私(個人)なりの意味」を付け加えながら学ぶことによって「有効な知識」になるということに注意を払って勉強していくことが大事だと渡部さんは述べています。とても重要な指摘だと思いました。

 AIは個人の行動や購買の履歴を大量に集積・解析して、個人に見合った活動、商品、教材などをレコメンドすることが得意です。AIを上手に活用することで得意分野を伸ばしていくということもできそうです。
 本書では、AIに対する怖さと希望の両面が触れられていて勉強になりました。

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