『ジョジョ』を生み出した荒木飛呂彦が明かした「悪役の作り方」
荒木飛呂彦 著『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』
(集英社、2024年)

いろいろな職業の人の仕事術が披露されている本はとても好きです。村上春樹さんの『職業としての小説家』という本や漫画家の水木しげるさんの『水木サンの幸福論』などはとても参考になりました。今回は『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』をご紹介します。「ジョジョの奇妙な冒険」「岸辺露伴は動かない」という大ヒットを飛ばす漫画家さんの創作のコツが明かされています。
本書を読んで、まず「すごい!」と感じたのは、荒木さんが漫画を描くにあたって、キャラクターの約60項目に及ぶ「身上調査書」を作成していることです。年齢、性別、身長、体重、家族関係、学歴、好きな音楽、ペット、尊敬する人、将来の夢、何を怖いと思うか、などなどの項目が、あらかじめ設定されていることに驚きました。書式が決まっていて、キャラクター(人物)ごとに空欄を埋めていくかたちになっています。実際に漫画を描く前の準備段階で、キャラクター像をみっちり設定しています。
荒木さんは、この「身上調査書」を書くうちに、「そのキャラクターに血が通っていくというか、なんだか友達のように思えてきます」と述べています。
荒木さんは漫画の「4大基本構造」は、キャラクター、世界観、テーマ、ストーリーだと指摘しています。漫画においてキャラクターは超重要なのです。なかでもキャラクターの行動の動機の部分をしっかり考えておくこと。
そして、主役以外のキャラクターも最初にある程度作っておかないとストーリー展開のなかで伏線を張っていくことができないので、「身上調査書」は重要だと荒木さんは言っています。
本書のタイトルに入っているように、悪役はキャラクターのなかでも超重要だと荒木さんは考えています。主役と悪役をセットで考えるというのが荒木さん流だと思いました。
私の好みの漫画・アニメの例でいうと、ガンダムの主役アムロに対して悪役のシャア。三国志の主役の劉備に対して悪役の曹操。これらを思い浮かべただけでも、悪役の重要さに気づきました。
荒木さんは、悪役とは「思い通りにいかない困難」であり「主人公が乗り越えていくべき何か」だとしています。これは「なるほど」と思いました。
また、アガサ・クリスティやコナン・ドイルの作品の場合、彼らが生きた時代の大英帝国の帝国主義、イギリス商人の強欲さなどが作品の悪役に反映されていると本書で指摘されています。こういう時代の影を悪役に落とし込むと、悪のキャラクターにぐっと深みが出るという荒木さんの考えは、私が今まで考えたこともなかったことで、とても大事なことだなと思いました。
そして、荒木さんの仕事術でとても大事だと感じたのは、健康管理に気をつけておられるという点です。30歳のとき「できるだけ徹夜をしない」「規則正しい生活をする」と決めたのだそうです。『こち亀』の秋本治さんが9時5時で仕事を終わらせるし、週休2日、長い休みをとってハワイに行くということを知ったことがきっかけだそうです。
健康管理に気を使っている点は、小説家の村上春樹さんや漫画家の水木しげるさんにも共通することでした。私も見習いたいと思います。