「聴く力」はよき上司の必須条件

菊岡正芳 著『リーダーは「聴く力」が9割』
(ぱる出版、2022年)

 英語に‘hear’と‘listen’があるように、日本語にも「聞く」と「聴く」の2つがあり、両者は微妙ながら大きな違いがあるのではないかと感じていました。「聴く」のほうが「聞く」よりも注意深く耳を傾けるニュアンスが強いようにも感じます。
 質問をすることに苦手意識があり、ウォーレン・バーガーさんの『質問力を鍛える本』や茂木健一郎さんの『最高の結果を引き出す質問力』など、質問力に関する本を読んできましたが、今回は企業などの組織のリーダーが部下の話を「聴く」ことをテーマにした本を読んでみました。
 本書の著者、菊岡正芳さんは企業コンサルティングや人材育成を手掛ける合同会社Kiku塾の代表をされています。これまでに武田薬品工業やJonson&Jonsonなどの社員や役員を経験されています。
本書『リーダーは「聴く力」が9割』は、企業リーダーが軽視しがちな「聴く力」に焦点をあてて、「聴く」ことを通じた組織・チームの改善について述べた本です。
 

 リーダーが話したり発信したりすれば、メンバーが理解し動くというのが理想ですが、現実は異なるというのが菊岡さんの考えです(2ページ)。
本書を読んで特に勉強になったのは以下の3点です。

1. 会議で「きいている」状態は4つに分類することができる

 菊岡さんは、会議で人が「きいている」状態は次の4つに分類できると述べています。①きいていない、②きいているようで、きいていない、③相手に注意を向け批判的に聞く、④相手の「話・その意図」を肯定的に聴く。(48ページ)
 ①は意識がほとんど相手に向いていない状態、②は次に自分が何を言うかで頭がいっぱいの状態、です。私も①②のような状態に心当たりがあり、こういう状態は場面によってはふさわしくないこともあるので気をつけなければと思いました。③は相手の話を遮らないようにきいているが、自分の視点で「賛成」「異議あり」と評価しながらきいている状態です。これに対して④は相手の話とその意図を肯定的に受け止めている状態です。これがいわゆる「傾聴」ということなのだろうと思いました。

2. リーダーは業務整理に取り組むべき

 リーダーは少なくとも半年に1回は業務の整理を行うべきだと菊岡さんは述べています(177ページ)。そして、業務整理のやり方は、リーダー軸とメンバー軸で、できることとでいないことを仕分ける方法を紹介しています。これはとても重要だと思いました。この仕分け方によると、①リーダーもメンバーもできること、②リーダーはできるがメンバーはできないこと、③リーダーもメンバーもできないこと、④リーダーはできないがメンバーはできること、という4つのゾーンが出来上がります。ここに、業務内容を当てはめていきます。①リーダーもメンバーもできる業務は、メンバーに任せて、リーダーは見守るということによって、リーダーの時間的余裕が生まれるので、その時間やエネルギーを、②リーダーはできるがメンバーはできない業務に注ぐことができます。また、メンバーの力量アップを図ることができます。④リにーダーはできないがメンバーはできることは、引き続きメンバーに任せ、場合によっては、リーダーはメンバーに「教えを請う」ことが適切です。また、③リーダーもメンバーもできない業務というのは、組織やチームとして挑戦する事柄になります。
このような4つのゾーンで業務を整理するということを今まで私は考えたことがありませんでしたが、とても重要だと思いました。
 また、このような業務整理を行うことの前提として、報告・連絡・相談があるということも述べられていました(177ページ)。以前、相田吉雄 さんの『ミスやトラブルが激減するリーダーの報・連・相』を読んだことがありましたが、企業リーダーの「聴く」ということと関連して、報告・連絡・相談は重要なのだと再認識しました。

3. 企業リーダーのタイムマネジメントのコツ

 本書には、企業リーダーの時間の使い方(タイムマネジメント)のコツも書かれていて勉強になりました。コツは6つあり、①細切れではなく塊の時間を作る、②メールやチャットに即反応を行わない、③中途半端な状態で終わらせる、④自分のタイプを知る、⑤書き出して見つける、改善する、⑥集中力と良い状態を保つ、です(181ページ)。③については少し「なぜだろう?」と疑問をもちましたが、完成させるより、中途半端な状態で終わらせたほうが次に取り組むときにすぐに集中状態に入れるという考え方だそうです(183ページ)。
 ⑤の書き出して見つけるという項目は、前田裕二さんの『メモの魔力』とも共通すると思いました。また、⑥について菊岡さんは、数分間、姿勢を正して目を閉じて深呼吸を行う「マインドフル瞑想」を推奨しています(186ページ)。
 

 本書を読んで、組織やチームのリーダーはメンバーの話を「聴く」ことで意思疎通をはかり、業務整理に役立てて、業績アップを目指すことができるということが分かりました。世間的には「話す」ことに比べて「聴く」ことが軽視されているように感じ、今まであまり考えたことのなかったことを考えさせてくれた、良い本だと思いました。

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