「モヤモヤ」に言葉を与えるメリットとは?

樺沢紫苑 著『言語化の魔力』
(幻冬舎、2022年)

 本書は精神科医でメンタル疾患の予防についてYouTubeなどでも積極的に発信しておられる樺沢紫苑さんの新刊本です。ベストセラーとなった樺沢さんの『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)を、このブログでも紹介しましたが、本書『言語化の魔力』では「話す」「書く」「行動する」という「アウトプット」の「話す」「書く」の部分を「言語化」と置き換えて、特に「悩み」の解消に役立てる方法について詳しく解説してくれています。たいへん勉強になることが多い本でした。今回は以下の4点に絞って内容を紹介したいと思います。

1. 「悩み」の本質とは?

  そういえば10代から20代にかけての頃、思春期は「悩み多き季節」だと何となく思い込んでいたように思います。うまくいかないことがあるとクヨクヨと考え込む性格だったのかもしれません。本書『言語化の魔力』では前半部分に「悩み」とは何か? ということについて詳しく解説してくれていたのが私にとってはとても勉強になりました。今まで「悩み」というものの性質を詳しく分析しようとしたことがなかったということに気付きました。「悩み」といっても、いろいろな種類の「悩み」があって、それが全体としてどういう性質になっているのかは考えることができていなかったように思います。
 樺沢さんは、「悩み」は3つの特徴をもっていると言います。それは①「つらい、苦しい」というネガティブな感情、②対処法が分からない、③停滞し、思考停止してしまうこと、の3つです(26~29ページ)。悩んだ時には①「つらい、苦しい」という思いが強いので、②や③のことに気が回らなくなっていたのではないかということに私は初めて思いが至ったように感じました。
 本書では、「悩み」の原因を根本的に解決することよりも、「とりあえずやれること」を1つずつやっていくことが推奨されています(32ページ)。それは先ほどの②の対処法を知り、③の思考停止を改善していくことで「なんとかなる」という感覚をもてるようにすることで①の「つらい、苦しい」という感情を軽減していくという方法が探究されています。とてもオリジナリティーのある方法で、精神科医として多くの患者さんの悩みと向き合ってこられた樺沢さんならではのアイデアが詰まっているように思いました。

2. 悩みを分析する3つの軸

 本書では、悩みを自分なりに分析する方法も示されています。それは3つの視点から、その悩みの度合いを分析するというもので、①コントロール軸、②時間軸、③自分軸、という3つです。
 ①は、自分でコントロールできる度合いが増せば悩みは軽減されるけれども、逆に「自分ではどうしようもない」「やりたくないことをやらされている」ことはストレスがたまり、大きな負担となる、ということです(45ページ)。
 ②は、たとえば今日の午前中に上司に叱られたことを帰宅後も思い出してクヨクヨ悩むのは「苦痛の再生」であって、今にチューニングし、「今できることは?」「今後はどうする?」と考えていくことが悩みの軽減につながります。また、老後の生活のことを心配するよりも、「定年後に備えて今できることをやろう」と考えることが重要だということです(65ページ)。
 ③は、他人を変えようとすることはエネルギーを大きく消耗することであって、自分の考え方や行動を変えることは比較的簡単にできるということです(77ページ)。
 こういう3つの軸という視点を私は今までもったことはありませんでしたので、とても勉強になりました。

3. 「言語化」のメリット

 本書のタイトルになっている「言語化」ですが、これは樺沢さんの『アウトプット大全』の「話す」「書く」に該当する「アウトプット」で、メタ認知科学では「外化(がいか)」と呼ばれています(206ページ)。To Doリストやタスクリストを書くこと、ひらめいたものを「メモ」することなどは「外化」であり「アウトプット」ですが、本書では「言葉にするプロセス」を重視して「言語化」と呼んでいます(209ページ)。
 「悩み」「苦しみ」「モヤモヤ」を言葉にしていく「言語化」のメリットは、自分を客観視することにつながり、内面の整理につながり、脳のワーキングメモリを軽くし、他者の共感を呼び、自分の行動が変わるきっかけになるというメリットがあると樺沢さんはまとめています(208ページ)。
本書の中盤部分は、これらのメリットについて多くの解説が行われています。ワシントンのがん医療センターで医師のナンシー・モーガンさんが行った「筆記エクササイズ」が紹介されていたのが興味深かったです。がんのような大きなストレスでも「言語化」することでストレスが軽減されることが紹介されています(273ページ)。以前読んだ中島輝さんの『自己肯定感ノート』では、心理学者のジェームズ・W・ペネベーカーさんの行った「筆記療法」が紹介されていましたが、医学や心理学など幅広い分野で「書く」ことを中心とした「言語化」の効果が認められているようです。

4. 今できることから行動する

 本書では「言語化」を「行動化」につなげていくことがとても重要だとされています(280ページ)。行動しないと、脳の扁桃体という部位の働きによって不安や恐怖がますます強まり、負のスパイラルに入ってしまします(287ページ)。これは脳科学の知見です。扁桃体は「暴れ馬」で、それに手綱をつけてコントロールするのが脳内物質セロトニン。セロトニンの活性のためには睡眠、運動、太陽光を浴びる、咀嚼(そしゃく)などが有効です(291ページ)。
 これらの「心身を整える」行動に加えて、直面している問題や悩みについて3つの軸をもとに分析し、「言語化」する。そして、「検索する」「本で調べる」「人に相談する」のも今、自分ができることです(295ページ)。
 今やれることに集中し、今やれないことは「保留」にする。そして、余裕ができてきたら「保留」の部分にも踏み込んで考え、行動することが重要です(299ページ)。こういう行動は扁桃体を鎮静化するので不安や恐怖を小さくしていきます。
 本書全体には「なんとかなるさ」「それはそれとして」「そんな人もいる」など、思考を切り替える言葉も多く紹介されていたことも参考になりました。


 本書は、悩みについて私が考えたこともないアイデアがつまった1冊になっていて、読んで本当に良かったと思いました。

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