人生論としての世阿弥
齋藤孝 著『座右の世阿弥』
(光文社、2020年)
以前『高田明と読む世阿弥』を読み、通販のジャパネットたかたの社長をされていた高田明さんによる世阿弥の解説ぶりがたいへん面白かったです。世阿弥に興味をもったので、今回は本書『座右の世阿弥――不安の時代を生き切る29の教え――』を読んでみました 。
齋藤孝さんは『声に出して読みたい日本語』というベストセラー本の著者です。これまでに齋藤さんの『究極 読書の全技術』や『新しい学力』をこのブログで取り上げてきました。
本書『座右の世阿弥』を読んで特に気になったのは次の3点です。
1. 演出家的な視点が役立つ
世阿弥は能の演者であり、能の作者でもありますが、演出家の精神を大事にしていました(62ページ)。これは、観客の目から見て演技がどのように見えるのかを意識して演技を行うことが大切という意味でもあります。世阿弥の有名な言葉として「離見(りけん)の見」がありますが、齋藤さんの解釈によると、演出家の精神を演者自身がもって演技を行うことがこれに該当します。
2.「観客の期待の高まり」というタイミング
スピーチやプレゼンの話し出すタイミングに気を配っている人は多くないのかもしれません。「いよいよ始まる」という期待が高まったところで第一声を出す。これを世阿弥は「諸人の心を受けて声を出だす、時節感当なり」と述べています。参考にしたいと思いました。
関連して、会場がざわざわして、まだ聞く姿勢ができていないときに、しっかり待つというのは勇気がいることです(72ページ)。つい話し出してしまいそうです。気をつけたいと思いました。
3. 自分で作品を作ることが大事
世阿弥は自分の門下の者には、自分で能をつくるように指導していたようです。「作者別なれば、いかなる上手も心のままならず」という世阿弥の言葉が残っています(134ページ)。他人の書いた台本では、意図するところを完全につかんで演じることはできないというわけです。
齋藤さんは、政治家の国会答弁や記者会見で、官僚や部下の作成した原稿を読むと説得力が感じられないと述べています(135ページ)。自作したもの、自分で作ったもの、自分で表現したもののメリットを生かすようにするべきだと思いました。
本書の最後のほうでは、自分の人生に対して、「舞台に立っている」という意識を持って臨むことが大切だという齋藤さんの考えが述べられています(206ページ)。世阿弥の能に関する言葉は、人生をどう生きるかを考える参考になるものだと思いました。
高田明さんは世阿弥の言葉から「伝える」というテーマを考えていました。齋藤さんは、人生をどう生きるかというテーマと重ねて世阿弥を読解していると思いました。