アクティブ・ラーニングの4つの柱
渡部淳 著『アクティブ・ラーニングとは何か』
(岩波書店、2020年)
以前、齊藤孝さんの『新しい学力』を読んで、知識を記憶し再生する「伝統的な学力」と異なる「新しい学力」は、思考力・表現力・判断力をアクティブ・ラーニングで学ぶことが重視されていることを知りました。今回はアクティブ・ラーニングという方法をさらに知るために本書を読んでみました。
本書の著者、渡部淳(わたなべ・じゅん)さんは高校で公民科を教えた経験のある教育学者です。本書を読んで特に勉強になったのは以下の4点です。
1. アクティブ・ラーニングの定義
文科省の文書ではアクティブ・ラーニングは明確には定義されていません(37ページ)。ですが、一般には発表、話し合い、調べ学習、ディスカッション、ディベートなどがアクティブ・ラーニングの代表例としてイメージされています。本書の著者・渡部さんは「獲得型学習」という言葉でアクティブ・ラーニングの内実を捉えようとしています。本書の引用されている溝上慎一さんの下記の定義がとても参考になると思いました。
「一方向的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」(38ページより)
ここで出てきた「外化」という言葉は「アウトプット」に相当すると思いました。
2. ディベートの難しさ
渡部さんは、アクティブ・ラーニングの1つであるディベートにつきまとう難しさとして、「意見」と「意見を発する人の人格」を分けて考えるという発想を持ちにくい傾向を指摘しています(55ページ)。この背景に、事柄と人柄の区別が曖昧だという日本文化の特徴があります。事柄そのものが正しいかどうか、論理的であるかどうか、という点と「誰がその意見を言ったか」が区別されず、結果として意見を言った人の顔色を伺いながら討論し、事柄の正しさ、論理性が犠牲になりやすいということです。そして意見を言った人は、意見を否定されると人格を否定されたような気分になる傾向があります。
この傾向は大人だけでなく子どもたちにもあるので、学校でディベートをすると感情的な「しこり」が残りやすいので、それを避けるためにディベートが学校に定着しにくいのではないか。これが渡部さんの指摘の概要です。私も同感です。「意見は意見で、人格とは別」とはなかなか行きにくいということを感じます。
3. アクティブ・ラーニングの4つの柱
渡部さんが提唱する「獲得型学習」のモデルは4つのカテゴリーから成り立っています。本書115ページの図がとても分かりやすくて勉強になりました。4つとは①リサーチワーク(調べる活動)、②ディスカッション、ディベート(討論)、③プレゼンテーション(発表)、④ドラマワーク(身体表現)。
④のドラマワークには、「最後の晩餐」などの有名な絵画の登場人物になりきって演じてみる、物語の登場人物になりきって演じてみるなどの身体を使った表現活動です。これはアクティブ・ラーニングに対する私の今までイメージにはなかったので少し驚きましたが、同時にユニークな活動だなと思いました。
4. 学びの演出家
渡部さんは、教師の仕事を「学びの演出家」として捉えています(139ページ)。本書で書かれているようなアクティブ・ラーニングを実践して「獲得型学習」を実現することができるならば、たしかに「学びの演出家」と呼ぶにふさわしいのではないかと思いました。
本書は近年教育界で注目されているアクティブ・ラーニングについての理論と具体的な方法が示されており、とても勉強になる本だと思いました。