「スマホ脳」状態はなぜ問題なのか?:2021年最も売れた本
アンデシュ・ハンセン 著『スマホ脳』
(新潮社、2020年)
本書の著者アンデシュ・ハンセンさんはスウェーデンの精神科医です。アンデシュ・ハンセンさんの本はこれまでに『ストレス脳』と『最強脳』を読んできましたが、今回は2021年に最も売れた本(オリコン調べ)になりました『スマホ脳』を読んでみました。『ストレス脳』『最強脳』と重なる部分もありましたが、とても読みごたえのある本でしたのでレビューします。
本書を読んで私が特に勉強になったのは以下の5点です。
1. SNSにハマる原因はドーパミン
ハンセンさんは精神科医であり脳科学にも詳しい人です。現代人がネット情報の海に飲まれて、SNSのチェックをやめられない原因は脳内物質であるドーパミンの働きにあると指摘しています(101ページ)。これは『最強脳』にも書いてあったことですが、スマホを手にした私たちはSNSで「いいね!」がつくたびに、ドーパミンが出て、脳に「ごほうび」がもらえるようになっています。
このような現代人の生活は、絶え間なく脳に情報を与え続けているので、情報を記憶に残す働きが鈍ってきていると指摘しています。それに関する研究データが発表されてきているようです。
2. デジタル健忘症
「デジタル健忘症」とは、情報が別の場所に保存されていることに脳が反応して、自分では覚えようとしない現象のことです(104ページ)。デジタル社会では「デジタル健忘症」が進行しているというのがハンセンさんの主張です。パソコンやスマホのハードディスクに情報が保存されるのであれば、自分はそれを覚える必要がないと脳が判断する。結果として、覚えることができない。それは知識が少ないということを意味します。ハンセンさんは次のように述べています。
「人間には知識が必要なのだ。社会とつながり、批判的な問いかけをし、情報の正確さを精査するために、情報を作業記憶から長期記憶への移動するための固定化は、「元データ」を脳のRAM(ランダム・アクセス・メモリ)からハードディスクに移すだけの作業ではない。情報をその人の個人的体験と融合させ、私たちが「知識」と呼ぶものを構築するのだ。」(104ページ)
「情報」+「その人の個人的体験と融合させたもの」=「知識」というハンセンさんの説明が、とても重要だと思いました。
3. スマホの睡眠への悪影響
ハンセンさんは精神科医として患者を診察する中で、、よく眠れない人が増えているという実感をもっているそうです(116ページ)。そして睡眠導入剤のことを尋ねられる機会も増えているそうです。
パソコンやスマホの画面から出るブルーライトが昼間の波長なので睡眠を妨げるというのは、もはや常識かもしれませんが、改めて注意したいと思いました。
4. 若者には衝動コントロールが難しい
「脳は後ろから前に向かって成長していく」とハンセンさんは述べています(179ページ)。そして、最後になってようやく成長する部分が額の奥の前頭葉で、ここが衝動をコントロールする部分です。
若者はここの部分がまだ発達途上なので、衝動コントロールが弱く、危険を顧みずに行動することが多い。ハンセンさんのこの説明も、とても大事だと思いました。
ハンセンさんは、このことから若者にはスマホ使用を制限するほうがよいと主張しています。スマホはドーパミンを刺激して、若者を夢中にさせるからです。若者にはアルコール禁止が適切なように、スマホを制限するのが適切というのがハンセンさんの見解です。
5. 若者のメンタル不調が増加傾向
1990年代からアメリカで実施されているティーンエージャーのライフスタイルを追跡する調査では、スマホやパソコンの前で過ごす時間が長いほど、気分が落ち込んだり、「幸せではない」と感じたりする傾向が高まっているそうです(189ページ)。反対に、誰かと会ったりスポーツをしたり、楽器を演奏したりすると精神的に元気になる傾向がみられます。気をつけたいと思いました。
本書では、デジタル社会への対処法として「運動がストレスを予防する」という結論が提示されています(209ページ)。これはハンセンさんの『ストレス脳』『最強脳』と共通の結論です。運動の大切さを知っているだけでなく、実行することが重要だと改めて思いました。
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