堀辰雄『風立ちぬ』と宮崎駿の『風立ちぬ』の雰囲気の違いを楽しむ
堀辰雄 著『風立ちぬ』
(Kindle 青空文庫、初出1938年)
以前、宮崎駿監督の映画『風立ちぬ』を観ました。堀辰雄という作家の同名の小説から題名が採られたと聞いたことがありました。しかし、飛行機の零戦を作った堀越二郎の生涯も合わせて映画『風立ちぬ』が作られたということも聞いたことがありました。今回はKindleの青空文庫で堀辰雄の『風立ちぬ』が無料で読めるということを知ったので、映画『風立ちぬ』との違いを確かめてみたいと思いました。
小説『風立ちぬ』の冒頭に、「風立ちぬ、いざ生きめやも」というポール・ヴァレリーの詩人が書いた一節が書かれていました。これは映画でも冒頭からナレーションされていたので覚えていました。私はポール・ヴァレリーというフランスの詩人のことを知りませんでした。また、ネットで検索して、この「風立ちぬ、いざ生きめやも」というのが堀辰雄自身の翻訳だということを初めて知りました。特に「生きめやも」というのが普段使わない言い回しだなと思いました。
本書はだいたい200ページぐらいですが、とても読みやすい文体でした。結核と思われる思い病気に罹っている女性・節子と短い夫婦生活が描かれています。八ヶ岳にあるサナトリウムに2人で過ごす日々の、とても濃い時間や心の動きを、自分でしっかりと確認するように、まるで日記のように書かれています。
ときどき節子の父親が会いに来るのですが、自分には見せない表情を父とのやりとりでは見せることに対して、主人公(おそらく堀辰雄)が嫉妬しているらしい様子も印象的でした。
映画『風立ちぬ』では、街に帰った主人公に、サナトリウムを抜け出して妻が会いにくるという場面がありましたが、小説にはその場面はありませんでした。
終盤は、節子が亡くなってからの主人公の思いが綴られていました。ポール・ヴァレリーが詩人だったことも考え合わせると、この『風立ちぬ』は日記というより、そして小説というより、叙情詩風なのかなと思いました。
今回、初めてKindleを使って作品を読んでみました。今まで、「読みにくいのではないか」という思い込みでKindleを避けていましたが、意外に読みにくさは感じませんでした。マーカーを引く機能もあって、使い勝手がいいかもしれないと思いました。