ジブリ映画の解説本あります!
文春文庫+ジブリ 編『ジブリの教科書20 思い出のマーニー』
(文藝春秋、2017年)
『マーニー』はやや難解な印象で
テレビの金曜ロードショーで『思い出のマーニー』を観ました。確か2017年頃だったと思います。内面的なつらさを抱えた少女がもうひとりの少女を出会って交流を重ねるようになる話で、派手な展開がないままストーリーが進行して最後まで難解な印象が残りました。話の内容や背景をもっと理解したいと思っていたところ「ジブリの教科書」という解説的な本のシリーズがあることを知り、本書を読んでみました。
本書はスタジオジブリで長くプロデューサーをされてきた鈴木敏夫さんや映画『思い出のマーニー』の監督の米林宏昌さんなど製作スタッフへのインタビューと作品を観た作家の朝井リョウさんや唯川恵さんなどの寄稿文などを収録した本です。ネタバレがありますので映画『思い出のマーニー』を観た後で読むことをおススメします。
『マーニー』製作のバックストーリーなど
まず、面白かったのは本作にはゼネラルマネージャーとして関わった鈴木敏夫さんのインタビューです。本作の製作の経過やスタッフの人間関係が分かります。この映画は、原作となる小説を鈴木さんが米林監督に見せて「これを映画化してみたら?」と提示したところから製作が始まっています。米林さんは前作『借りぐらしのアリエッティ』の監督をした時に、家庭崩壊に近いところまで行って、以後は監督業をしないつもりでいたというようなエピソードが触れられています(35ページ)。
そして、鈴木さんの想定よりも映画『思い出のマーニー』の台詞(せりふ)が大幅に増えたのだそうです(43ページ)。台詞が増えたのは、本作で作画監督・脚本を担当した安藤雅司さんによるもので、監督の米林さんと安藤さんの間のせめぎ合いが起きていたのだそうです(43ページ)。原作小説を読んでいないので何とも言えないところもありますが、台詞が多いのは本作の場合どうだったのか、それが作品の難解さにつながっていなかっただろうかと思いました。
主題歌をめぐる「仁義なき戦い」?
それから主題歌について。本作の製作開始前にプリシラ・アーンという歌手が来日してジブリ美術館でコンサートを行いました。その時、本作でプロデューサーを務めた西村義明さんが主題歌を歌ってもらうことを思いついたそうです。ところが、宮崎駿さんの息子の宮崎吾朗さんがジブリを去ってNHKのテレビアニメ『山賊の娘ローニャ』を製作していたそうで、西村さんと同時に主題歌をプリシラ・アーンさんに歌ってもらうことを思いつきました。これを知った鈴木敏夫さんは、すぐに渡米してプリシラ・アーンさんに主題歌の交渉をするよう指示し、契約が成立しました。宮崎吾朗さんは鈴木さんに抗議したそうですが、吾朗さんには別の歌手を紹介して丸く収めたのだそうです(46ページ)。これには感心しました。主題歌を歌えるような候補を鈴木さんはふだんからチェックしておられるのだな、ということについて感心したのと、鈴木さんはジブリの人間なので、ジブリを離れてNHKの番組製作をしている吾朗さんではなく、ジブリ作品を製作している西村さんを優先的に扱った、ということにも感心しました。
朝井リョウさんの寄稿文なども
次に、朝井リョウさんの寄稿文「『普通』から漕(こ)ぎ出す少女の表情」も共感する部分が多かったです。朝井さんは「これまでのジブリ作品のヒロインといえば、大きな口を開けて笑ったり、大きな雫(しずく)を落として泣いたり、みな、表情がとても豊かだった。どうして杏奈は、そうなれなかったのだろうか。」と述べています(138ページ)。杏奈は本作の主人公です。たしかに『思い出のマーニー』は、それまで私が観てきた宮崎駿さんの作品などのジブリアニメとどこかタイプが違うと感じます。それには主人公の表情や言葉の抑揚(よくよう)が乏しいことも関係があるように思いました。
米林監督のインタビューも
本書には、米林監督のインタビューや主演の声優を務めた有村架純さんの対談なども収録されており、スタッフが作品に込めた思いや背景情報が豊富につまっています。作品を観た後、もう少し本作についての理解を深めたいという人に是非オススメします。