論文・レポートの構造はハンバーガーのようにシンプルに

小熊英二 著『基礎から分かる論文の書き方』
(講談社、2022年)

 文章の書き方については尾藤克之さんの『ちょっとしたことで差がつく最後まで読みたくなる最強の文章術』、論文・レポートの書き方については苅谷剛彦/石澤麻子さんの『教え学ぶ技術――問いをいかに編集するのか』、渡邊淳子さんの『大学生のための論文・レポートの論理的な書き方』、戸田山和久さんの『新版 論文の教室――レポートから卒論まで』などを読んできましたが、今回は本年(2022年)に新たに刊行された本書を新聞広告で見つけて読んでみました。 

古代ギリシアから発展した説得の技法

 本書の著者、小熊英二さんは社会学を専門とする研究者で、慶應義塾大学で長年にわたり「アカデミック・ライティング」という論文の書き方を教える講義を担当しています。本書は「アカデミック・ライティング」講義の内容をベースとしながら人文・社会科学に共通する論文の書き方を解説してくれています。
 本書を読んで、印象的だったのは、論文は「人を説得する技法」だという点(27ページ)が、これまで読んできた論文・レポートの書き方の解説本よりも明確だったことです。小熊さんは、古代ギリシアのアリストテレス『弁論術』の時代から、相手を論理的に説得するという論文の技法が西洋の基本的な教養となっていることを示して(28ページ)、言葉や表現の工夫も大切だが、弁論の組み立て(配列)も大切にされてきたことを指摘しています。そして、一般的になってきた弁論の配列が、主題提起、説得(論証)、結びの3つという並びです。つまり、序論・本論・結論という有名な並びは長い伝統があるということが分かりました。

ハンバーガー・エッセイ

 この序論・本論・結論という3段重ねは、アメリカでは「ハンバーガー・エッセイ」と呼ばれ、小学校から習うそうです(31ページ)。序論と結論のバンズで本論のお肉をはさむイメージです。面白い表現だと思いました。
さて、そうすると、
①序論。(まず主張を書く。)
②本論。(主張の論拠を3つのパートに1つずつ書く。)
③結論。(主張を再確認する。)

となります。この①②③をもう少し細かく区分しつつ、「トピック・センテンス(主題文)」と「サポート・センテンス(支持文)」によるパラグラフ・ライティングでパートを組み立てていく(32ページ)。このあたりは渡邊淳子さんの『大学生のための論文・レポートの論理的な書き方』、戸田山和久さんの『新版 論文の教室――レポートから卒論まで』と共通しています。これが論文・レポートの書き方の「作法」であり「王道」だと言えそうです。

よい文章の基準とは

 本書を読んで改めて意識したのは、論文における「よい文章」とは何かという点です。その基準について小熊さんは①意味が明確であること、②論理が追いやすいこと、③典拠が示されていること、の3つだと言います(376ページ)。そして、論文に向かない「悪い文」は、たとえばですが「みなさんの思いを、大切にしてゆきたい。」という文だと例示されています。この文には主語がないので「誰が」大切にするのかが不明確、「みなさん」とは誰のことなのか対象が不明確、「大切にする」内容が不明確です。どのような方法で「大切にする」のか、場合によっては数値やエビデンスなどを示したり、使う用語を明確に定義したり、といったことが論文では必要になります。一般的な文章と、論文の違いはこのあたりにあると気づきました。


 本書は、論文の書き方を詳しく、しかも分かりやすい文体で解説してくれており、各章の最初のページに章のポイントが簡潔にまとめられていてとても読みやすかったです。また、小熊さんが担当されている「アカデミック・ライティング」講義の雰囲気が、学生と先生の会話の形式で収録されており、学生がつまずきやすいポイントや、それをクリアするヒントがたくさん示されています。入門的でありながら本格的な解説書だと思いました。大学生は1冊手もとに置いておくとレポート作成や論文作成にとても役に立つと思いました。




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