定年活動のリアルが分かる

高橋信典 著『退職後の不安を取り除く 定年1年目の教科書』
(日本能率協会マネジメントセンター、2022年)

 定年はまだまだ先の私ですが、年金だけでは不足するとか、孤独になりがちだとか、退職後の生活が不安になるような話が世にあふれているような気がします。いざ定年退職の時を迎えて急に何かを始めるというのは無理なので、今のうちからできることがあればやっておいた方がいいだろうなと考えていた時に、アマゾンのレコメンドで本書を知り、読んでみました。

 本書の著者、高橋信典さんは東京都が主催する「東京セカンドキャリア塾」の講師を務めるなど、セカンドキャリアのコンサルタントをされています。本書の帯には、自分にあった仕事の見つけ方、仲間作り、生き方など定年後を快適に過ごすためのTo Doが記載されているとあります。

著者の苦い経験から

 本書の第1章で詳しく述べられていますが、高橋さんご自身が定年後のセカンドキャリアの築き方で最初はつまずくことが多かったそうです。高橋さんは57歳の時、会社が早期退職者を募集したことがきっかけでほぼ何も準備せず退職したそうです。この時は「新しいことにチャレンジできる」という高揚感が先行していたそうです。その後、再就職を支援してくれる会社やハローワークに通い、資格試験の勉強をし、キャリアコンサルタントの資格を取得しています。しかし、この資格の活かせる就職先は思うように見つからず、その後は起業の道を模索しましたが、結局は断念したそうです。リアルな定年活動のご苦労が綴られていいます。その後、保育園が保育士を採用する時の面接などをする採用担当者として再就職が決まりますが、自分よりかなり年下の女性が上司となり、自分の働き方に細かな注文がつけられるようになって随分と悩んだそうです。高橋さんは、知人から「自分勝手で偉そうなところがある」ことを指摘され、反省し、上司に謝罪しました。

シニアとして保育士資格にチャレンジ

 そして、保育士の仕事を理解しようと自ら保育士資格を取得したことで採用担当の仕事がより円滑にできるようになり、周囲からも認められるようになっていきました。このような高橋さんの努力には全くもって脱帽だと思いました。保育士の試験には音楽の実技試験があり、ほとんどの受験生がピアノで受験するそうですが、高橋さんは学生時代の経験を活かしてギターで受験し、Fコードを弾き間違える失敗をして、試験官が笑っていたというエピソードは私も笑ってしまいました。

テレビに出演した

 高橋さんは、副業としてカフェの開業を目指しているそうで、パン屋さんでアルバイトもしたそうです。その時期、面白い定年活動をしていると注目され、TBSテレビの『ビビット』の「定活」特集が放映された時に出演したそうです。

定年後の収入・支出をシミュレーション

 さて、本書には高橋さんのリアルな定年活動の経験から得られた具体的なアドバイスが多く書かれています。私が特に注目したのは第3章に出ていた「未来シミュレーション表」です。定年後に働くのか、働かないのか。働く場合は再雇用なのか、別のところに再就職なのか、起業なのか。どの道かを選ぶ必要があります。その方向性を決める1つの基準として、毎月どれだけのお金が必要になるのかを考えてみるために「未来シミュレーション表」に記入しながら、毎月の食費、光熱費、通信費、各種ローンなどの支出と、年金をはじめとした収入を把握することを高橋さんは薦めています(72ページ)。こうやってイメージを具体化することで、再就職や副業などでいくらぐらいの収入が必要になるのかを知ることが、やはり大事なんだと思いました。これを考えることを先延ばししたとしても、実際に退職の時を迎えれば考えざるをえなくなるというのを実感しました。

ネットを使ったシニア副業が活況

 本書を読んで最も勉強になったのは、108ページ以下に紹介されている「シニアのための副業術」です。高橋さんは、副業プランナーの中野貴利人さんの本を参考にしたそうですが、大きく分けると①不用品を得る、②人に教える、③遊休資産を貸す、④手作り品を得る、⑤相談に乗る、⑥感想を述べる、⑦育児を手伝う、という7つがあります。①は「メルカリ」、「ヤフオク」、②は「ストアカ」、③は「MonooQ」、④は「minne」「Creema」、⑤は「ココナラ」「タイムチケット」、⑦は「キッズオンライン」「imom」などのスマホアプリやインターネットサイトなどを使うものが多く紹介されています。インターネットの普及でシニアの副業事情も大きく変わってきて、しかも、可能性が広がっていることを知ることができ、とても勉強になりました。

 本書を読むと、定年した直後に訪れることが予想されるお金や仕事の不安に対してしっかりと向き合い、具体的な解決策を考える必要があることを実感できるようになると思います。定年後の生活での支出と収入の金額を把握し、インターネットを使った副業の広がりを知ることができると不安だらけではなく希望が湧いてくるように思いました。
 また、高橋さんはシニアに必要となる「ネガポジ変換」についても述べています(60ページ)。それは「年金の額が少ないから不安」→「年金の範囲で工夫して楽しむことは面白い」、「あの人とは考えが違うので合わない」→「考え方が違うので勉強になる」、「病気にならないか心配」→「心配だからこそ食事に気を付けよう」といったものです。「前向きに進んでいると、チャンスも訪れますし、チャンスを発見できます」というのが高橋さんの考えです(61ページ)。本書を読んで本当に良かったと思いました。

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