文章が書けると「人の気持ちを考えられるようになる」
印南敦史 著『「書くのが苦手」な人のための文章術』
(PHP研究所、2022年)
「文章を書く」ということが「得意だ」と感じたことがありません。伝わる文章が書けずに自信をなくしていた時期が長くありました。ただ、今はメールなどで文章を書く機会が多いので苦手とは言っていられないという事情があります。本書の題名にひかれて読んでみました。
本書の著者、印南敦史(いんなみ・あつし)さんは音楽雑誌の編集長をされた後、独立し、現在はWebを中心に書評家として活動をされています。
本書を読んで特に勉強になったのは以下の3点です。
1. 文書が書けると「人の気持ちを考えられるようになる」
本書に書かれていたことの中で、少し意外だと感じたのと同時に「なるほど」と思ったのは、文書が書けると「人の気持ちを考えられるようになる」という印南さんの考えです(222ページ)。「書く」という行為をするときには、無意識に「どうやったら伝えられるか」ということを考えているもので、表現の工夫や配慮というものをするようになる。つまり、多かれ少なかれ読む人の気持ちに寄り添うようになり、結果として「人の気持ちを考えられるようになる」。これが印南さんの考えです。
もちろん、SNSなどで読む人の気持ちを考えずに勢いで書きすぎてしまうということもあるわけですが、そういう失敗が経験値となり勉強になるということだろうと思います。
2. 書くことを習慣化する方法
本書には、書くことを習慣化する方法として、「瞬間メモ」「淡々日記」「コラムの書き写し」という3つが紹介されています。「瞬間メモ」とは、日常生活の中の瞬間的なひらめきやアイデアを記録しておくというものです。メモ用紙でも、ノートでも、スマホのメモアプリでも構いません。印南さんは、この「瞬間メモ」を就寝前に見直して、断片をつなぎ合わせる時間をもつことが、文章の訓練になると述べています(163ページ)。
「淡々日記」とは、日記の簡易版で、自分の思いをあまり書き込まず、その日起こったことを淡々と記す日記のことです(165ページ)。文例としては「朝、シリアルとコーヒー 朝ドラ見逃す」「午前中 忙しい ランチ セブンでおにぎり デスクでお茶と」など至ってシンプルなものです。これも就寝前に見直して「書く」ということを習慣化する方法です。ストーリー化や、自分の思いを書くことにハードルの高さを感じる場合には、この「淡々日記」が有効だと思いました。
朝日新聞の「天声人語」など有名なコラムがありますが、印南さんはコラムの書き写しをときどきやっているそうです。
「コラムの書き写し」には①書き出しのコツ、②話題の流れ、③話題の切り替え方、④まとめ方、の4つを学べると印南さんは述べています(169ページ)。
3. 「書く前に読む」を習慣にすると文章力が上がる
よい文書を書くためには、いい文章を読むことが重要というのは村上春樹さんも『職業として小説家』で述べていました。印南さんは
「いい文章」を読む習慣をつければ、無理なく頭のなかに“いい部分”をストックできるようになり、自分が書く際にそれを活用できるのです。(77ページ)
と述べています。
それから読書習慣をつけるために、
①「毎日・同じ時間」に読むようにする
②「早く読める本」を中心に選ぶ
③「きのうとは違う本」を読む
というコツが紹介されていて興味深かったです(88~91ページ)。①は小中学校の「朝の10分間読書」のイメージです。時間が区切られていることがポイントで、「早く続きを読みたい」と思いが高まる効果があります。③が意外でしたが、印南さんによると、本を読むのに時間がかかると、読むのが苦しくなってしまうので、それを避けるために、②の早く読める本を用意しておき、パラパラとでもいいので読み切るようにすることが読書習慣をつけるコツだということです。
本書には、「書く」ことが苦手だった印南さんご自身の体験から、読書習慣と書く習慣を身につけて、書くことが好きになる方法が述べられています。オススメの1冊です。