(1文60文字以内) キャッチコピーのように短く書けるかな?

 文章を書くとき「短く書こう」という意識で書いたことはありませんでした。ただ、長い文章だと意味が分かりづらいというのは感じていましたので、「短い文章を書く」という本書のコンセプトが新鮮に映り、読んでみることにしました。
 本書の著者、田口まこさんはフリーランスのコピーライターで、30年以上にわたるキャリアのなかでライオン、花王、資生堂などの女性向け商品の広告を中心に担当されてきました。
 コピーライターは短い言葉で訴えかけるのが仕事ですから、『短いは正義』という本書のテーマを書くにふさわしいかただと感じました。そして、本書には「60字1メッセージ」で結果が出る文章術というサブタイトルがつけられています。60字というのはワープロの画面で1行半です。ワンセンテンスをこの中に納めるというのは私にとってはだいぶハードルが高いと思いました。しかし、田口さんがふだんされているコピーライターというお仕事では1文20字以内で書くというのが常識なのだそうです(8ページ)。これを読んで私はコピーライターの文章術に俄然興味がわきました。
 田口さんは次のような長い文例を示しています。

今回の広告は、商品のヘビーユーザーとなり得るZ世代に向けて、彼らがついSNSで拡散したくなる仕掛けより、商品の認知度を爆発的に高めるこれまでにないプロモーションとさせていただきました。

これで93字ですが、たしかに長くて読みにくいと感じます。できれば読みたくない文章だと思いました。

 田口さんは、この例文の読みにくさの原因はただ1つ、「ワンセンテンスが長い」ということだと指摘しています(5ページ)。そして、「1文60字」という文字数が、「読みやすさを左右する境界線」だと述べています(4ページ)。私は「なるほど」と感じました。
 本書では、短く書くための2つの「絶対ルール」が示されます。それは①メッセージごとに文を小分けにする、②文の贅肉を削り落とす、という2つです。①は、長い文に含まれる多数の情報を整理して、1文には1つのメッセージだけを含むようにするというもので(35ページ)、②は「ていねいすぎる言葉」に代表されるような「余分な言葉」を削るというものです(60ページ)。
 田口さんの言う「ていねい沼」言葉の代表例は①「いただき」、②「してあげる」「してくれる」、③「していただいてよろしいでしょうか」、④「のほう」です(63ページ)。④は「会議室Aのほうになります」のような使われ方をしていますが、「会議室Aになります」で問題はなく、スッキリします。
 ①から④は、たしかに私もメールなどでよく使用していますが、①②③は削ったほうが分かりやすい文になり、③は「お願いします」に言い換えると分かりやすさが増す、ということが述べられていて、とても勉強になりました。


 さて、本書を読んで最大の気付きは、「数字」を使うと正確さや伝わりやすさがアップするということです(92ページ)。例えば、「明日は雨の予報が出ています」は「明日は降水確率90%です」と比べるとあいまい過ぎます。
 また、「超節約レシピ」を「100円レシピ」と変えると具体性が大きくアップします。このあたりは、「さすがコピーライター」のお仕事だと感心しました。


 さらに、「数字+ひと言」というテクニックも勉強になりました(130ページ)。これは、30%という数字だけでは、多いのか少ないのか分かりにくい場合、「たった30%」と少ないことを明示したり、「30%にもなりました」と多いことを強調したりする方法です。
 大正製薬のリポビタンDは、「1本にタウリン1000mg」と広告していますが、実質的には「1本にタウリン1g」と同じことです。これは「単位を変える」という広告業界のテクニックだということを、本書を読んで初めて知りました(135ページ)。


 他にも「実は」「まさか」「見逃せない」などの「アテンションワード」で注意をひくことも、短い文章で伝える際のコツだということも分かりました(188ページ)。
 今まで知らなかった文章術をしっかり学べて、とても勉強になる本だと思いました。

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