幸せを収集する能力が大事!

樺沢紫苑 著『精神科医が見つけた3つの幸福』
(飛鳥新社、2021年)

 以前、水木しげるさんが書いた『水木サンの幸福論』(KADOKAWA、2004年)を読んで以来、幸福とは何かということをよく考えるようになりました。また、精神科医の樺沢紫苑さんの『精神科医が教える毎日を楽しめる人の考え方』(きずな出版、2022年)を読んで、毎日の生活の中での遊びや楽しみが幸福につながるという樺沢さんの考えに共感しました。今回は、樺沢さんが「幸福とは何か」について詳しく解説した本書を読んでみました。
本書の著者、樺沢紫苑さんは精神科医で、「情報発信を通じてメンタル疾患、自殺を予防する」というビジョンを掲(かか)げて作家としても活躍されています。

脳科学の成果による幸福論

 樺沢さんは精神科医として10年以上にわたって脳科学研究も行ってきました。樺沢さんは脳科学にもとづいて「幸福の正体」について次のように解説しています。私たちが「幸せ」と感じるときに脳の中で分泌(ぶんぴつ)される「脳内物質」には100種類以上がある。その中で私たちの日常的な幸福感を構成する主な物質は「ドーパミン」「セロトニン」「オキシトシン」の3つです。脳内物質にはまだ十分に研究されていないものも多いそうですが、この3つの物質が幸福感の主要なものであることについては樺沢さん以外の多くの脳科学研究者たちの考えが一致しているそうです(20~21ページ)。私は「ドーパミン」については聞いたことがありましたが、具体的にどのような働きをしているのかまでは知りませんでしたし、他の物質についてもほとんど知識がありませんでした。

幸福物質ドーパミン、セロトニン、オキシトシン

 本書で述べられている「幸福」の意味はシンプルです。それは「脳内で幸福物質が出た状態」で「ドーパミン、セロトニン、オキシトシンが十分に分泌されている状態」です(22ページ)。そして、この3つの幸福物質がそれぞれどのような条件、状態、行動、アクションで分泌されるのかが分かれば、私たちは「幸福」になることができるというのが本書の見解です(23ページ)。ただ、実際には1つの行動で1つの物質が分泌されるわけではなく、複数の物質が分泌されます。たとえば、笑顔をつくるという行動をすると、「セロトニン」「オキシトシン」に加えて「ノルアドレナリン」「エンドルフィン」という4つの物質が出ることが分かっています(95ページ)。ですが、本書では、話をシンプルにすることで幸福のイメージを固めて実際の生活に生かしていくという方針がとられています。
そのうえで3つの主要な幸福物質の性質を分類すると、①「セロトニン」は心と体の健康、②「オキシトシン」は、つながりと愛、③「ドーパミン」はお金、成功、達成、富、名誉、地位、となります。樺沢さんは「あなたにとって幸福とはなんですか?」と質問した場合、この3つの分類のどれかにあてはまるのではないかと述べています(24ページ)。たしかにそうだと思いました。

幸福には優先順位がある

 さて、樺沢さんは「幸福には優先順位がある」と言います(26ページ)。それは①→②→③の順番です。つまり、①健康、②つながりと愛、③お金や仕事上の成功、という順番が大切で、仕事上の成功を健康より重視すると不幸になるし、家庭をかえりみずに働いても幸せにはなれない、というのが樺沢さんの考えです(30ページ)。とても納得しました。

「幸せ収集能力」

 そして、本書の中で私が最も気に入ったキーワードが「幸せ収集能力」です(133ページ)。これは1日のうちで「楽しいこと」5つと「苦しいこと」5つがあった場合でも、「幸せ収集能力」が低い人は「苦しい」ことばかり収集してしまうので「毎日、苦しい、つらいことばかり」という印象になりますが、「幸せ収集能力」が高い人は「楽しい」ことにフォーカスし、「苦しい」「つらい」出来事はスルーするので、結果として「今日は、楽しい1日だった」という印象が残ります。
 この「幸せ収集能力」があると、今そこにある健康、家族や友人とのつながりの大切さに気付けます。樺沢さんは「セロトニン」「オキシトシン」をベースにした幸福は「BE」の幸福で、「ドーパミン」をベースにした幸福は「DO」の幸福だと述べています(72ページ)。つまり、今そこにある健康、家族や友人とのつながりの大切さに気付き、それを拡大していくための鍵になるのが「幸せ収集能力」なのではないかと思いました。

 一方で、お金など「ドーパミン」をベースにした幸福は「やった!」という達成感が得られる一方で、「もっと、もっと」と暴走する傾向があります(249ページ)。この暴走を食い止めるために本書では、お金や物に感謝する「オキシトシン」を「ドーパミン」に組み合わせるなどのアドバイスもあります。これもとても大切だと思いました。

日記で幸せを収集する

 本書では、「幸せ収集能力」をつける方法として、幸せにフォーカスした日記をつけることが提案されています。私はこれまで日記が続いた経験がありませんが、やってみようかなと思いました。本書は「幸福とは何か」についての解説だけでなく、幸福に近づいていくために行うべき具体的な提案がいろいろ書かれている、とても実践的な本だと思います。是非おススメします。

https://hon-navi.com/?p=591

「ゲゲゲの鬼太郎」だけじゃない! 水木しげるの幸福論が面白い!!

水木しげる 著『水木サンの幸福論』(KADOKAWA、2004年) https://amzn.to/3xMdiHH 水木しげるは「幸福とは何か」を考えた  子どもの頃、テレビの「ゲゲゲの鬼太郎」を観…

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