「遊び方」にも良し悪しがある!

樺沢紫苑 著『精神科医が教える毎日を楽しめる人の考え方』
(きずな出版、2022年)

 以前、水木しげるさんの『水木さんの幸福論』を読んで以来、どうやったら幸福になれるのかを考えるようになりました。水木さんの「幸福の7カ条」の第3条は「他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし」です。自分の楽しさを追求することが幸福につながるというのは本当だろうか? それが本当だとしても、生活の中で具体的に何をしたらで楽しさを追求できるのか? など疑問もありました。そこで樺沢(かばさわ)紫苑(しおん)さんの『精神科医が教える毎日を楽しめる人の考え方』を読んでみました。

「遊び」時間を楽しめているか?

 本書の著者、樺沢紫苑さんは精神科医で、「情報発信を通じてメンタル疾患、自殺を予防する」というビジョンを掲(かか)げて作家としても活躍されています。
 樺沢さんは、毎日の生活を「仕事」と「遊び」という二区分で考えて、仕事がしんどくても、職場の人間関係がドロドロでつらくても、1日数時間の「遊び」時間を有意義に過ごすことで、ストレス発散とリフレッシュを行う方法を本書で提案しています(21ページ)。
 樺沢さんは『情熱大陸』(TBS系)や『プロフェッショナル仕事の流儀』(NHK)などの人物ドキュメントから抽出した法則として「仕事ができる人は打ち込める趣味をもっている」(52ページ)と述べ、その理由を脳科学に説明しています。「楽しい」「うれしい」「ワクワクする」とドーパミンという物質が分泌(ぶんぴつ)され、「楽しむ人」は「ドーパミンを味方にしている」のです(54ページ)。

悪い「遊び方」

 そして、本書の重要な提案は「仕事を楽しめなければ、仕事以外を楽しめば良い」という点です(63ページ)。ただし、悪い遊び方もあります。それは「睡眠時間を削(けず)る」「疲れが増える」「長時間座(すわ)る」「依存性が強い」「やりすぎ」です(134ページ)。これらに該当するものとして注意が必要なのは、お酒、ギャンブル、ショッピング、ゲーム、スマホ、などです。

読書は能動型の「遊び」に変換できる!

 本書で提案されている良い遊びの例としては、まず、読書があります。読書は、しっかり読んで、感想をアウトプットしたり「日々の行動に取り入れたいこと」を書き出して行動化したりすることによって自己成長につながりやすい遊びだと樺沢さんは述べています(141ページ)。読書や映画鑑賞は、読んだり観たりしただけでは受動的な娯楽」で、しばらくすると忘れてしまうことが多いのですが、感想をシェアしたりパンフレットを読んだりすることによって能動型の娯楽となり、言語化する能力と「論理的思考力」が鍛えられるのです(147ページ)。このあたりの樺沢さんの指摘にとても共感を覚えました。

リラックスという要素

 そして、リラックスすることも遊びの重要な要素です。遊びによって「仕事モード」と「休息モード」を上手に切り替えることがメンタル疾患の予防にも効果的だというのが樺沢さんの考えです(156ページ)。このリラックスするためにも読書はいいそうです(165ページ)。他にも、入浴、友人や家族とのコミュニケーション、日記なども「リラックス系娯楽」として推奨(すいしょう)されています(166、170、172ページ)。毎日、何となく行っている活動が「遊び」として挙(あ)げられているのは少し驚きました。そういえば、入浴剤を使ったりして積極的に楽しんでいる人もいるようですね。

依存症にならない「遊び方」

 さて、本書では精神科医の立場から、依存症にならない遊び方も解説されています。厚労省の推計では、アルコール依存症(109万人)、ギャンブル依存症(536万人)、IT依存の傾向(421万人)というデータがあり、他にもショッピング依存症、薬物依存症、ゲーム依存症などを含めると日本人の10人に1人は依存症とその予備軍だそうです(301ページ)。これらの予防のためには、一定の「制限」を設けるのが良いと樺沢さんは述べています(302ページ)。スマホやゲームは1日2~3時間まで、お酒は週2日の休肝日、ギャンブルは1回1万円まで、ショッピングは1か月3万円まで、などです(305ページ)。

「歳をとっても遊ぶ」

 本書の内容の中でも、特に切実に感じたのは「歳をとっても遊ぶ」という項目で、リタイア後は「趣味」「遊び」を通じて、「運動不足」「孤独」を予防していくことが、生活習慣病や認知症の予防につながるという指摘(323ページ)はとても重要だと思いました。

楽しさを追求して幸福になる

 水木しげるさんは「楽しさを追求すること」が幸福につながると述べていましたが、樺沢さんの本書を読んで、その意味がもう少し具体的に分かったように思います。水木さんにとって、漫画を描くという「仕事」も、妖怪を探して世界を旅することをはじめとする「遊び」も、没入(ぼつにゅう)できる楽しみだったと思いますが、私は漫画も描けませんし、今はコロナ禍で旅行などもしにくい状況です。でも、樺沢さんが本書で提言している読書や映画鑑賞、家族とのコミュニケーションなどは今までにもやってきたことだし、今後も続けられそうだと感じました。生活の中での遊びの重要性についての解説した本はあまり多くないと思いますので、是非おススメします。

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