福井県の学力と表現活動(アウトプット)
志水宏吉+前馬優策 編著『福井県の学力・体力がトップクラスの秘密』
(中央公論新社、2014年)
「コロナ下で子どもの体力が低下」との報道
子どもたちの学力や体力は社会的にとても関心の高いトピックで、国際的な学力調査で日本の順位が下がったとか、全国学力テストで自治体の順位が平均より下だったとか、毎年のように報道されています。2022年の初めには「コロナ下で小中学生の体力低下が顕著」というニュースも流れました。学力も体力も適切な学習やトレーニングを継続することで養われるので、子どもたちを取り巻く環境がどうなっているのかがとても重要になると感じます。今回は小中学生の学力テストや体力テストで上位をとり続けている福井県の教育環境を調査した本書を読んでみました。
本書の編著者である志水宏吉さんと前馬優策さんは、ともに教育社会学を専門とする研究者です。本書が出版されたのは2014年で、この年度の小中学生を対象とした全国学力テストで福井県はトップクラスでした(小学校2位、中学校1位)。また、2013年の全国体力テストでも福井県は小学校が1位、中学校2位でした(21ページ)。本書は福井県が「その高い教育的パフォーマンスにおいて、ゆるぎない地位を占めている」という点に注目して、その要因・秘密を探るべく福井県の教育現場を観察したり、教育関係者にインタビューしたりした結果をまとめたものです。
子どもが教え合う福井県の教育
本書を読んで分かったことの第一は、福井県の小学校では子どもどうしの「学び合い」と「授業のまとめ」に力が入れられているということです(53ページ)。「学び合い」は子どもの主体的な発言を促進するための方法で、子どもどうしが教え合いながら理解を深めていくのだそうです。また、「授業のまとめ」は、今日の学習でわかったことを自分の言葉でノートにまとめる活動です。本書では、この「授業のまとめ」が子どもの自己認識力を高めているという効果があると指摘しています(54ページ)。
体力づくり、宿題も重視
分かったことの第二は、福井県の小学校では体力づくりに意欲的に取り組んでおり、授業間の長い休み(20分)の時に5分間校庭を走る「業間マラソン」をしている小学校もあるのだそうです(56ページ)。また、握力のトレーンングとして手のひらを握って開く「グーパー体操」も取り入れられています(59ページ)。
分かったことの第三は、福井県の中学校では宿題・提出物が多いということです。宿題は毎日1時間~1時間半ぐらいは最低限かかり、それに加えて自主学習ノートを提出させているのだそうです(88ページ)。また、塾や習い事のある生徒は学校で宿題を終わらせるように、時間のやりくりをしているということです(90ページ)。
200字作文やスピーチ
分かったことの第四は、福井県の中学校では書く活動や話す活動という表現活動(アウトプット)に力を入れているということです(94ページ)。具体的には、新聞コラムの筆写、要約、感想を書く活動や校外学習に行って調べてきたことを新聞にまとめる活動、各教科の授業から学んだことを「200字作文」にまとめる活動、スピーチ活動などです。
全国学力テストで福井県と並ぶ「ツートップ」の一角を占めているのが秋田県ですが、秋田県の教育でも「書く活動」に重点が置かれています(26ページ)。表現活動(アウトプット)は学力づくりにとても有効なのだということが分かり、とても興味深かったです。子どもの教育に関心のある方に本書を是非、おススメします。