コロナ以前の感染症に人類はどう対処してきたのか?
山本太郎 著
『感染症と文明――共生への道――』
(岩波書店、2011年)
コロナ禍で感染症への注目が急増
2020年始めから新型コロナの感染が広がるまでは感染症というものにほぼ関心がありませんでした。冬場にインフルエンザの予防接種を受けるということもあまりしていませんでした。
2020年に最初の緊急事態宣言が出された頃、そして、志村けんさんのコロナ感染による死が報道された頃、日本社会全体が強い不安に覆われました。私はコロナウィルスについての詳しい情報を求めてNHKのコロナ特設サイトやノーベル医学・生理学賞を受賞された山中伸弥さんのサイトなどを毎日のように閲覧するようになりました。そして、広く感染症というものを人類がどのように克服してきたのかについて知りたいと思い、この本に行き当たりました。
はるかなる感染症の歴史
この本が出版されたのはコロナ流行前の2011年、著者はアフリカ、ハイチなどで感染症対策に従事した経験をもつ医学博士、山本太郎氏です。2022年2月28日には天皇、皇后両陛下が皇居・御所で山本氏から感染症の歴史について説明を受けられたそうです。
本書では、麻疹(はしか)がイヌかウシに起源をもち、イヌ・ウシがペットや家畜となることで人間社会の感染症となったと述べられています(8ページ)。紀元前3000年頃メソポタミアでヒトに感染するようになった麻疹(はしか)は約5000年かけて地球の隅々にまで広がりました(10ページ)。これに比べてコロナウィルスはグローバル化した人間社会において「一瞬」にして地球全体に広がってしまいました。
麻疹(はしか)やおたふく風邪、風疹(ふうしん)、水疱瘡(みずぼうそう)などは今では「小児(しょうに)の感染症」とみなされていますが、これは成人の多くが免疫をもっているからです(11ページ)。ワクチンの開発と予防接種によってコロナが麻疹(はしか)やおたふく風邪などと同程度のものとみなされる日はいつ来るのでしょうか?
閉じられた「感染症の教科書」を再び開く?
1969年、アメリカの公衆衛生局長官ウィリアム・スチュワートは「感染症の教科書を閉じるときがきた」とアメリカ議会公聴会(こうちょうかい)で発言したそうです(124ページ)。私が生まれ育ったのは、このような認識が広く一般に共有された社会だったことに気付きました。ただ、2020年以降のコロナの流行以降、感染症の教科書を再び紐解(ひもと)く必要が出てきたように感じます。
21世紀は「感染症の世紀」になるのか?
21世紀が感染症の世紀になるのかどうか注目していきたいと思います。本書を読むと人のグローバルな移動、人間と動物との関係、ウィルスや人体の免疫の働きなど、幅広く社会と文明のあり方を考えることができます。オススメします。