事務系ルーティーンを行動科学で見直す

冨山真由[監修]『定時で帰る女性の仕事ルールと時間術』
(ナツメ社、2020年)

 時間術に関連する本は樺沢紫苑さんの『神・時間術』、和田秀樹さんの『人生に差がつく時間の作り方・活かし方』、若杉アキラさんの『捨てる時間術』、ayaさんの『「夢を手に入れる」人がやっている時間術』という4冊を読んできました。今回は5冊目として、行動科学の視点から書かれた本書を読んでみました。

行動科学とは

 本書を監修しているのは、行動科学コンサルタントの冨田真由さんです。行動科学とは人間の行動や心理を分析し、日々の生活を自ら効率よくマネジメントできるようにするメソットのことです。アメリカのビジネス界や教育界などで大きな成果があがっており、冨田さんはそれを日本人に合うようにアレンジして紹介しています。
 本書の冒頭に行動科学の特徴が5つあげられており、とても分かりやすいと思いました。それは、

①精神論ではなく、“行動すること”で目標を達成する

②自己肯定感を高めて、自信が持てるようになる

③感情に振り回されなくなり、自分自身がラクになる

④がんばりすぎずに80%の力で燃え尽きない

⑤“好き嫌い”を超えた後輩や上司とのコミュニケーション

というものです。「やる気」だけで仕事を乗り切ろうとするのではなく、また、人間関係のわずらわしさや感情に振り回されることを防ぎながら、目標に向けた具体的な行動を8割ぐらいの力で積み重ねることを推奨しているので取り組みやすいメソッドだと思いました。

工夫や小ワザを多数紹介

 本書は主に事務系の仕事をしている女性を想定して、日々の行動を見直して改善するための工夫、小ワザ、アドバイスが多く書かれていると感じました。特に注目したいと思ったのは以下のような項目です。

  1. 日々のTo Doリストは3~5個に絞るとよい
     今日1日の行動を「見える化」するTo Doリストは仕事の効率アップに必須だが、リストにあまり多く盛り込むと、それに追い詰められてしまう。重要なのは、本当にできる量だけをリスト化し「今日の目標はクリアした。明日もがんばろう!」と達成感を得ることです(26ページ)。
     よくある間違いとして、To Doリストをチェックリストと混同してしまっているというものです。チェックリストは仕事の内容を細かくピックアップするもので、「漏れ」がないことを重視しますが、To Doリストは優先順位の高いものに絞ってリスト化することがコツだと冨山さんは指摘しています。
     このTo Doリストを朝イチの5分で書き上げ、それにしたがって行動していくことが行動科学的な時間術の基本となります。また、1日を午前、午後の前半、午後の後半という3つに分割してスケジュールを立てるとよいというアドバイスも、とても参考になりました(28ページ)。
  2. 退社前15分でデスク周りを片づける
     これはオンとオフのメリハリをつけ、翌日の仕事のスタートもスムーズになるという効果があります。デスク周りがごちゃごちゃしていると頭の中を整理できず、仕事に追われる気分が続くと冨山さんは指摘しています(54ページ)。ただ、気をつけるべきなのは、退社前15分片づけは、毎日やろうとするとたいへんで長続きしない可能性が高いため、月、水、金など週3回ぐらいを目安にし、でいれば同じ部署内のメンバーと一緒に取り組むとルーティーンとして定着しやすいと冨山さんは述べています(56ページ)。
  3. 会社の人とは仲良くならなくていい
     冨山さんは「仕事をスムーズに進めるコミュニケーションがとれればいい」のであって、仲良くなる必要はないと言います(102ページ)。また、会社には色々な人がいて、中には苦手な人や気の合わない人がいるものですが、重要なのは、自分の役割を明確にし、その役割を全うするのが自分の仕事であると自覚することが大切と述べています(103ページ)。そして、「行動科学では、自分の周囲に透明な壁が存在すると考え、相手の感情に入り込まず、相手の感情が入ってこないようにします」とも述べています。これはとても参考になりました。
     
  4. モヤモヤするときは「振り返りノート」を書く
     真面目な人ほど悩みがちですが、悩んでいる時間が長いと仕事効率が悪くなります。そこで、冨山さんは「振り返りノート」を推奨しています(106ページ)。これは、①モヤモヤの原因、②自分の感情、③ネクストアクション(どのような行動をしたら失敗やミスを防げるのか)の3つをセットで書いて感情をコントロールするというメソッドです。怒りの感情をコントロールする「アンガー・マネジメント」も書くことを重視しますが、それに通じるものがあるように思いました。

 本書はTo Doリストの書き方や社内での人間関係、「振り返りノート」など、とても具体的なアドバイスが書かれていて、とても勉強になりました。本書は、仕事効率をあげるための具体的な行動がていねいに解説されていて、とても分かりやすくて良い本だと思いました。また、書名に「女性の」と入っていますが、男性にも参考になる事柄がとても多く書かれていると思いました。社会人になって数年の若手の人や中堅・ベテランの人にも働き方の改善に役立つと思います。オススメします。

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