「気が散る」状態に効く:書き出す時間術で集中力UP
樺沢紫苑 著『神・時間術』
(大和書房、2017年)
有効な時間の使い方について、私はこれまであまり考えたことはなかったように思います。ビジネス用の手帳を使って1日、1週間、1年の予定を大雑把に管理していただけでした。ただ、書類などを仕上げる場合、締め切りを設定すると集中力が増すということは実感していましたので、その他にも有効な時間管理の方法があれば知りたいと考え本書を読んでみました。
日本人の長時間労働は残念
本書の著者、樺沢紫苑さんは精神科医で作家です。YouTubeなどでも精神医学や心理学の情報を分かりやすく情報発信しています。私はこれまでにも『毎日が楽しめる人の考え方』など樺沢さんの本を何冊か読んできました。
本書を読んで驚いたことの1つに日本人の「労働生産性」の低さの問題があります。「労働生産性」とは、就労者1人あたりが働いて生み出す付加価値の割合で、言い換えると「仕事効率」のことです(47ページ)。2016年の統計によると日本の「労働生産性」はOECD加盟国34カ国中22位、主要先進7カ国では22年連続で最下位だそうです。これは意外でした。日本は世界3位の経済大国だと思っていたからです。たしかに、日本の国内総生産GDPは世界3位です。しかし、「仕事効率」が悪いのを長時間労働でカバーしているというのが実態だと考えた方がよさそうです。
本書第1章では、「仕事効率」を高めることと関連して集中力の高め方がアドバイスされています。私が実感していた締め切り設定の効果ですが、本書では「ケツカッチン仕事術」「ストップウォチ仕事術」などの項目を含む「制限時間仕事術」として紹介されていました(96ページ)。
気になることを書き出して集中力アップ!
本書を読んで最も勉強になったのは、雑念を排除した状態で仕事をする方法です。これは集中力を高める方法として重要です。本書で論じられている中で「思考による雑念」というものがありました。たとえば「そういえば今日中に出さないといけない書類があった」「そういえば、会議室の予約をしないと」「Aさんにメール返信しないと」「お腹が減ってきた」など、今取り掛かっている仕事以外のことが頭に浮かぶと集中力が妨げられます。私もよく経験しています。
これに対処する方法として樺沢さんは「気になることはすべて書く」という方法を紹介しています(84ページ)。書いてあることによって「気になれば、見ればいい」という状態を作ることが、仕事中の雑念を排除するのに有効だと樺沢さんは述べています。
これには心理学的な裏付けとして「ツァイガルニク効果」というものがあるそうです。旧ソ連の心理学者ツァイガルニクは心理実験をもとにして「目標が達成されない未完了課題についての記憶は、完了課題についての記憶に比べて想起されやすい」ということを発見しました。これに対する樺沢さんなりの解釈として、「そういえば今日中に出さないといけない書類があった」という考えは「未完了課題」なので想起されやすいので、それを書き出しておくことで、一種の「完了形」を作ると雑念として浮かびにくいということです。書いたらいったん忘れて今の仕事に集中するということを習慣にするのが集中力を高める方法だということです。「なるほど」と思いました。やってみたいと思います。
「朝シャワー」は試してみる価値あり
次に勉強になったのは「朝シャワー」です。朝は集中力が高い時間帯で、「脳のゴールデンタイム」だという本書の指摘(116ページ)は、経験的にもなんとなく分かっていました。それをさらに一歩進化させる方法が「朝シャワー」です。樺沢さんが実際にやっていることだそうですが、医学的には、夜に優位になった「副交感神経」を昼の目覚めの状態で優位になる「交感神経」に切り替えるために、体温や心拍数を上げることが有効で、「朝シャワー」は体温や心拍数を上げることができるそうです(120ページ)。本書を読んで、私もやってみましたが、たしかにボーっとした状態から脱するのに効果があると思いました。
緩急をつける働き方を
さて、本書では「仕事効率」を高めて時間を有効に活用する方法、そして、集中力を高める方法が多く紹介されている一方で、ゆっくりする、リラックスする時間の使い方も紹介されています。樺沢さんは「緩急をつける」という言葉を使っていますが、「仕事をするときにはバリバリやって、休むときには仕事のことを一切考えない」ということを推奨しておられます(191ページ)。これは『毎日が楽しめる人の考え方』の中心テーマになる論点だと思いました。私も休日も仕事のメールチェックをするなどして緊張状態が続くのは良くないと思いました。そして、夜のいい睡眠で次の日のいい仕事を実現できるのだと思いました。そういう時間の使い方を心掛けたいと思いました。
今日あった楽しかった出来事を思い出して
本書の終わりの方に、寝る前に「今日あった楽しかった出来事を1つ思い出す」ようにしましょう、と述べられています(203ページ)。漫画家の水木しげるさんは、楽しかったことは覚えて、辛かったことは忘れることを心掛けていたそうですが、そのコツは寝る前の時間の使い方にあると思いました。私も続けていきたい習慣だと思いました。