「時間ミニマリスト」のノウハウを学べる!

若杉アキラ 著『捨てる時間術』
(日本実業出版社、2019年)

 時間の使い方(時間術)関連の本は、これまでに樺沢紫苑さんの『神・時間術』、和田秀樹さんの『人生に差がつく時間の作り方・活かし方』を読んだことがありました。今回は3冊目として本書を読んでみました。
 本書の著者、若杉アキラさんの肩書は「時間ミニマリスト」となっています。若杉さんは会社員時代に週90時間の残業をし、心労がたたって体調を崩したことから退職し、27歳で不動産会社を起こし、徐々に労働時間の短縮する方法を考案・実践することで、現在では週3日だけ働く生活を実現しているそうです。「自分にとって本当に大切な時間を見極め、それ以外は捨てていくことにした」のだそうです(「はじめに」より)。本書には、そんな若杉さんの時間短縮(ミニマル化)のノウハウが70個のトピックとして紹介されています。

時間短縮の具体的なノウハウ

 その中で私が特に気になったのは次のようなものです。

・「本は全部読まない」
 若杉さんは、本を読む前に「自分はその本からなにを知りたいのか」目的を明確にし、それを意識して目次とまえがき、あとがきに目を通してから、関心のある項目を中心に飛ばし読みすることを推奨しています(28ページ)。また、「30分で読む」など制限時間を決めて集中して読むことや、重要なポイントは声に出して読むことなど、密度の濃い読み方を実践しているそうです(29ページ)。これは本要約チャンネルさんの『「読む」だけで終わりにしない読書術』が提案しいている「目的型読書」に近い読み方だなと思いました。

・「いつまでも『アナログ』」でいない」
 若杉さんは、デジタル機器やITツールがどんどん進化して便利になっているので、いつまでもアナログ人間でいると知らぬ間に時代に取り残されて、時間をムダにしてしまうので「自分の使っているモノを定期的に見直すことが大切」だと指摘しています(32ページ)。今やデジタル・トランフォーメーションが加速している時代なので、この指摘は重要だと思いました。

・「『エナジーバンパイア』に捕まらない」
 若杉さんは「会うだけで疲れる人」「話すだけで気が重くなる人」など気の進まない、イヤな人間関係に時間を取られないことを推奨しています。他人のエネルギーを吸血鬼(バンパイア)のように吸い取っていくので、そういう人を海外では「エナジーバンパイア」と呼ぶこともあるそうです(70ページ)。そして、そういう人との関係を自動車の運転にたとえて「一定の距離を保てば事故にはならない」と述べています(72ページ)。この言葉はとても面白いと思いました。若杉さんは、「エナジーバンパイア」の愚痴や自慢話を、遠くのほうを見ながらうなずくだけにして、絶対に共感せず、心の距離を離しながら、「できるだけ会わない、話さない」という作戦を紹介してくれています。とても参考になりました。

・「『宇宙人』には反論しない」
 「エナジーバンパイア」と関連しますが、若杉さんは「宇宙人」への対処法も述べています。「宇宙人」とは、人の話に耳を傾けず、自分の考えに固執し、感情的になりやすく、対立意見には過剰な反論をしてしまう、というタイプの人のことです。話の通じない相手に反論しても結局は時間のムダというのが若杉さんの考えです(83ページ)。このあたりのトピックは神岡真司さんの『嫌いなヤツを消す心理術』にも通じるものがありますが、ムダな時間を省く時間術として論じている点に若杉さんの本書のユニークさがあると思いました。

・「『消費者だけ』にならない」
 若杉さんは、お金を使って得られるモノやコトだけを楽しむ「消費者」という立ち位置だけでは人間的な魅力に欠けてしまい、むしろ、何かを発信する「生産者」になるとお金がなくても楽しめるようになると指摘しています(126ページ)。若杉さんは、このことを写真やブログを始めて気がついたのだそうです。休日の過ごし方を、「消費者」と「生産者」、どちらでも楽しめるようにすることが大事だと思いました。

・「『効率よく生きる』をやめる」
 若杉さんの提案内容は、ムダを省く工夫のことが多いように思いましたが、意外にも、効率を追いかけすぎることを戒めています(33ページ)。「通勤は最短ルート」「ランチはコスパのいい店」「読書は仕事に関する本だけ」ということだけでは、行動がワンパターンになってしまい、新たな経験値を得ることができません。そうなると自分の世界がとても狭くなってしまいますが、ムダや非効率の中から新たな発見があると述べています(34ページ)。このあたりは、若杉さんの肩書である「時間ミニマリスト」、つまり、時間の最短化を目指すような考えとは一見かけ離れているようにも思いますが、本書の内容全体を通じて、いつもと違う発見から刺激を受けることを楽しもうとする余裕が感じられました。


 本書で提案されている時間短縮の方法は、とても共感するところが多くあり、特に「エナジーバンパイア」「宇宙人」の対処法は重要だと思いました。また、「消費者」としてだけでなく「生産者」として休日の過ごし方を考えてみると面白くなると思いました。

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