【自問してみる】そのプレゼンに結論はあるか?

伊藤羊一 著『1分で話せ』
(SBクリエイティブ、2018年)

伝わる話し方を模索して

 人に何かを伝えることは難しいと感じています。特に話し方についてはあまりトレーニングを受けた記憶もないので、もしコツのようなものがあるならば習得したいと思い本書を読んでみました。
 本書の著者、伊藤羊一さんはヤフー・アカデミアという企業内大学の学長を務め、主にプレゼンテーションの指導をされています。本書の帯には57万部のベストセラーと記されています。

基本は「結論+根拠+具体例」

 本書のメッセージはとてもシンプルです。ビジネスシーンなどで人に何かを伝えるには要点を手短かに話すことが重要で、その基本構造は「結論+根拠+具体例」である、ということです(118ページ)。
 そして、この「結論+根拠+具体例」という基本構造を3段のピラミッドのようなイメージにあてはめて、一番上を結論(1つ)、真ん中が根拠(3つ)、3段目を具体例(1つの根拠について複数)として整理しておくことが重要です。私は今までこのようなピラミッド構造を意識していませんでしたので、とても勉強になりました。
 このピラミッドで、結論の部分は、自分の伝えたい主張であり、自分の話のゴール(目的)です。この結論部分がない話というのは伝わりにくいという本書の指摘(40ページ)は、はっとさせられました。今まで、そういう話やプレゼンをしたことが何度もあったのではないかと反省しました。

「パラグラフ・ライティング」にも通じる?!

 「事例やデータをいくら重ねても、相手はこのデータや事実から、何を読み取ればいいのかまったくわかりません」(41ページ)と伊藤さんは述べていますが、まったくその通りだと思いました。また、渡邊淳子さんの『大学生のための論文・レポートの論理的な書き方』などで解説されているパラグラフ・ライティングの方法で、「主題文」と「支持文」でパラグラフを構成するのが論理的な文章の基本だと述べられていますが、伊藤さんの言うピラミッド構造の頂上の結論のところが、パラグラフ・ライティングの「主題文」にあたるのではないかと思いました。

「考える」と「悩む」は全然違う

 それから、伊藤さんはピラミッド構造の結論部分を導き出す作業が「考える」という行為だと指摘しています(46ページ)。これも重要だと思いました。「考える」とは「自分の中にあるデータや自分の外にあるデータを加工しながら結論を導き出すこと」だと伊藤さんは述べています(47ページ)。
 この「考える」ことと「悩む」ことは違うと伊藤さんは述べています(51ページ)。「悩む」は考えが頭の中をぐるぐる回って無限ループにはまっている状態ですが、「考える」とはあくまで結論を出す行為です。結論を出す際にもピラミッド構造は有益で、2段目の根拠部分を並べて「だから何?」と自分に問い、出てきた答えに対し「本当か?」「ファイナルアンサー?」と質問を自分に投げかけることが重要だという本書の指摘(52ページ)は、これから生活のいろいろな場面で活かせそうだと思いました。

伝わりにくくなるパターンはコレだ!

 さて、本書の題名は『1分で話せ』ですが、話が長くなり、聞いている人に伝わりにくくなる要素が4つあげられて、これも耳が痛いご指摘でした(76ページ)。それは①自分が頑張ったプロセスを話す、②参加者に気を遣いすぎて本人の意見が不明確になる、③自分の意見のマイナス面を並べたてる、④笑いを入れる、の4つです。特に①はそういう話をした記憶があり、反省しました。④は自分では控えているつもりです。しかし、他の人を聞いていると妙にそちらに走る人がいて、その話で場は和みますが、何を言いたいのかは伝わりにくいという印象は確かにあると思いました。

具体例で感情を揺さぶる

 さて、ピラミッド構造の3段目、具体例ですが、これは聞いている人のイメージを喚起し、感情を揺さぶる効果があると伊藤さんは言います(118ページ)。結論と根拠で話のロジック(論理)をスッキリと作り、話す言葉も短く、言いきることを心がけ(92ページ)、中学生が理解できるレベルの言葉しか使わないのが良い(100ページ)のですが、さらに、具体例を用いて、イメージを喚起し、感情を揺さぶるために3段目を用意する。もちろん、この3段目を全部話していては話が長くなってしまいますので、場面に応じて必要な具体例を話すというのが伝わりやすい話にする基本だということが分かりました。


 本書を読むと、伝えるための話のコツというのが分かると思います。ピラミッド構造というのはとても重要だと思いました。「57万部のベストセラー」という帯の言葉も大げさではない、貴重な内容が書かれていると思いました。人に伝えることに困り感のある人に是非オススメの1冊です。

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