世界で注目されている「自然」の癒やし
フローレンス・ウィリアムス 著『Nature Fix 自然が最高の脳をつくる』
(NHK出版、2017年)
冬はやはり外に出かける気が失せてしまいがちですが、春秋や夏の夕方以降などに歩いたり、自然の中に出かけたりすると気分が良くなる気がします。昨今はキャンプブームだとも聞きますので、自然の癒やし効果にも注目が集まっているのではないかと思います。人間の生活と自然の関わりについて考えてみようと思い本書を読んでみました。
本書の著者、フローレンス・ウィリアムスさんは作家・ジャーナリストです。『ニューヨーク・タイムズ』紙などの有名なメディアに環境、健康、科学に関する記事を執筆してきた経歴があります。
本書のタイトルのThe Nature Fixとは「自然が治す(整える)」という意味です。著者のウィリアムスさんは自然が健康に与える影響にかなり強い関心があるようで、このテーマを研究している世界中の研究者や活動家のところに取材に行ったり、専門的な論文を読んだりしている様子が本書の至る所から伝わってきました。
ウィリアムスさんが取材に訪れた場所を拾ってみると、森林セラピーのことで日本、山林治癒プログラムのことで韓国、森林の健康効果のことでフィンランド、山道でのトレッキングのことでスコットランドとフィンランド、キャンプとトレッキングのことでアメリカ中西部、北部アイダホ州などです。いろいろなところを飛び回っているウィリアムスさんのバイタリティーに感服したのと同時に、世界の多くの国や地域で自然が健康に与える影響が注目を集めて、さまざまな実験やプログラムが行われているのだなということが本書を読んで分かりました。
日本に来た時には「ガイドのクニオさん」が言ったことばがそのまま引用されていたので、取材の様子がとてもリアルに伝わってきて面白かったです。
「都会から森林浴目当てにいらっしゃる方は大勢います。文字どおり、緑のシャワーを浴びるのです。」
これが「ガイドのクニオさん」の言葉です。取材風景が目に浮かぶようでした。
本書の第8章タイトルは「ぶらぶら歩きの効果」です。私もときどき散歩をしていますので、この章の内容は興味があったのですが、次のように書かれていて面白かったです。
「こんにちでは、大企業の経営者たちから気が散りやすい知識労働者(ナレッジワーカー)まで、だれもが創造力を発揮しようと躍起になっている。そんな時代だからこそ、散歩には新たな期待が寄せられている。大企業の重役のなかにはウォーキングをしながらミーティングを行ない、デスクの横にウォーキングマシンを置く人なであらわれた(このアイディアはいただけない――外に出て、歩きなさい!)どこに行くにもウェアラブル歩数計を着用し、とりつかれたように歩いている人を見かける。そうした人たちは地域の人や職場の仲間たちとウォーキングの会を主催する。」(232-233ページ)
この箇所を読んだ時、思わず吹き出してしまいました。これはどこの話? もしかしてアメリカの大企業の重役はウォーキングをしながらミーティングをしてるの? デスクの横にウォーキングマシンって! いろいろ想像が浮かんでとても楽しくなる文章がいっぱいの本でした。
本書では、人間の生活には自然との触れ合いが必要だという関心が貫かれています。それを脳波や心拍数などのエビデンスとして示そうとする世界中の科学者たちの姿が何度も出てきます。健康の効果を客観的に示すのはとてもたいへんなことなのだと気づきました。