ミスマッチが絶妙だった!ジャパネット高田の通販と能の「花」

高田明 著『高田明と読む世阿弥』
(日経BPマーケティング、2018年)

 ジャパネットたかたのテレビCMで、社長の高田さんがしゃべっているのを何度も聞いたことがありました。高田さんのしゃべりは流暢で本当に上手だったことを思い出したので、高田さんが書いた本を探したところ本書『高田明と読む世阿弥』を見つけました。世阿弥の名前は「中学が高校の歴史の教科書に載っていたな」と感じた程度でしたが、本書を読んで、世阿弥についての知識と「話すこと」のノウハウが両方学べたと感じましたのでレビューします。

 本書の著者、髙田明さんは通販のジャパネットたかたの創業者で、サッカーのV・ファーレン長崎の社長をしていた時期もあります。
 本書は、テレビCMで商品紹介をすることと、日本の伝統玄能である「能」は共通する部分が大きいというユニークな視点をもつ高田さんが室町時代の能の役者・理論家の世阿弥について論じた本です。そして、能研究の専門家である増田正造さんが監修者として能の専門用語を解説しています。
 能についても世阿弥についても全く知らなかったせいもあって、多くの知識を新鮮に学べた本だと感じますが、以下の7点が特に印象に残りました。

1. 何事にも、調子のいい時期と悪い時期がある

 世阿弥は「男時(おどき)」と「女時(めどき)」という言葉を用いて、勝負事で自分に勢いがある時期と、相手に勢いがある時期というものがあると説いています(26ページ)。世阿弥は室町幕府の足利義満の寵愛を受けていましたが、義満が死ぬと冷遇され、晩年は佐渡に島流しにされたそうです。
 高田さんは、こうした世阿弥の人生や考えは、通販のビジネスの世界でも当てはまると述べていて興味深かったです。

2. 「初心忘るべからず」は世阿弥の言葉

 誰もが耳にしたことのある「初心忘るべからず」は世阿弥の言葉だとは知りませんでした。そして、最初の志を最後まで貫くという意味というよりも、「若者だけでなく老年に至っても、その時期の初心というものがある」というのが世阿弥の考えだったということも初めて知りました(40ページ)。

3. 「心を十分に動かして身を七分に動かせ」

仕事であれば心を十分に働かせるのは当然であるが、体まで十分に働かせると余計な力は入ってしまうので、七分程度にせよと世阿弥は述べているそうです(85ページ)。これを高田さんは「余白を作る」「手は抜かず、肩の力を少しだけ抜いてみる」と解説しています。これはとても重要だと思いました。

4. タイミングを見極めよ

 世阿弥は「早きも悪し。遅きも悪かるべし」と述べています。自分ではなく相手のタイミングで、相手がほしいタイミングで出すのがポイントという世阿弥の教えを、高田さんは「お客様の関心のある商品を、お客様のタイミングで提案できるか」と引き取っています(101ページ)。通販番組で値段を言うタイミングをどこにするのかなど、高田さんは常に工夫し続けたそうです。

5. すべての独創は模倣から始まる

 能は演劇の一種ですので、例えば老人の役をするというのは、老人の物まね(模倣)をすることになります。そして、能を含めた芸事は師匠や先人の真似(模倣)をして上達していきます。ですので、模倣は全く悪いものではなく、模倣の先に独創があるということを高田さんは世阿弥から学び取っています(106ページ)。

6. 180度変えなくてもよい

世阿弥は能の世界に革新をもたらしたイノベーターですが、その世阿弥も完全なオリジナルの芸術を生み出したわけではなく、すでにあったものをアレンジして新しい切り口で能に取り入れたそうです(125ページ)。その方法については、今後もっと調べてみたいと思いましたが、高田さんの「180度変えなくてもよい」、つまり、少し方向を変えるだけで随分斬新なものができるという指摘はとても重要だと思いました。

7. 命には終わりあり、能には果てあるべからず

 人間の命には終わりがあるが、能という芸能は終わりがないということを世阿弥は述べているそうです(167ページ)。芸能を次世代に伝えて永続させるようとした世阿弥の考えはすばらしいと思いました。


 本書を読んで、能という芸能・演劇や世阿弥という人について、もっと知りたいと思いました。他の本を探して読んでみたいと思います。高田さんの世阿弥の解説は、とても面白くて、最高の入門書だと思いました。

Follow me!