教師の働き方改革のヒント
堀裕嗣 著『教師の仕事術』
(明治図書、2018年)
以前、作家の池澤夏樹さんの『知の仕事術』という本を読んだことがありました。小説家の仕事の仕方として本の選び方、新聞やインターネットの活用法、文章の書き方、スケジュール管理の仕方を学ぶことができました。当然といえば当然なのですが、作家であってもいきなり文章を書き始めるというわけではなく、準備をし、スケジュール管理をして執筆のための時間を確保する必要があることなど、仕事術は生活の仕方に関わっていると感じ、とても面白かったです。今回は、作家ではなく教師という仕事の仕方について書かれた本書を読んでみました。
本書の著者、堀裕嗣(ほり・ひろつぐ)さんは北海道の中学教師で、国語を専門として教鞭をとっておられます。教師の仕事術について盛りだくさんの内容が書かれている本書から、私が特に参考になったのは以下の4点です。
1. スキマ時間を大いに活用すべし!
日本の教員の長時間労働が問題となっており、多くの先生がたが平日遅くまで残業しているのはよく知られています。教員の世界こそ「働き方改革」が求められるのですが、堀さんの本書には「僕の勤務時間は余っている」と書かれており(31ページ)、毎日余裕をもって仕事をされているようです。その秘訣はズバリ、スキマ時間の活用です(28ページ)。堀さんは「多くの教師は10分休みが足すと60分になるということを意識していません」と指摘しています(31ページ)。1日6回ある授業の合間の10分休みを堀さんはフル活用するそうです。そして、1本の電話、1つの連絡、打ち合わせはおよそ3分以内で終わるのが普通で、それ以上時間がかかるのは雑談が紛れ込んでいる場合がほとんどというのが堀さんの考えです。これは自分の場合にあてはめてチェックしてみる価値がありそうです。
2. 退勤時間を意識して1つ1つの仕事を早めに準備すべし!
仕事を終えて帰る時間を決めて、それに間に合うように工夫するということを教師たちは意識しているのだろうか? という問いを堀さんは投げかけます(23ページ)。残業するのが当たり前で、仕事を増やしている教育委員会が悪い、行政が悪いという愚痴を言うのも一理あるが、帰る時間を午後5時と決めて、それまでしか時間がないことを想定して、いろいろな文書作成や授業の準備などをするようになると、先へ先へと備えて、今日の授業の準備を数日前に終わらせたり、文書の締め切りを想定してそれより1週間早く仕上げたり、来週の分の印刷などもしたり、ということを工夫するようになる、できるようになる。それでこそ、校内会議の延長など、やむをえない残業にも余裕をもって対応できる、というのが堀さんの考えです。
3. 手帳を大いに活用すべし!
本書には、堀さんが実際に使用している手帳が書き込みを含めて掲載されています。主に週単位でやるべきこと(To Do)が書き込まれ、済んだTo Doには「済」というハンコを押してチェックしているのが分かります。校務上の予定は黒、書類作成などは赤、出張などは青、プライベートは緑、と色分けもされていて、とても参考になりました。そして、予定・計画がどのように遂行され、いつ完了したのかをメモしておくことで、以後の仕事の効率化や質の改善を考えているそうです(73ページ)。これはビジネスなどの用語では「フィードバック」ということだと思いますが、これをやっているのは素晴らしいと思いました。そういえば、教師の仕事は次年度の同じ時期に、同じような授業や行事などが周期的に行われることが多いので、こうやって手帳にメモしながら、次年度の仕事の改善に活かせるのではと思いました。
4. 同時進行で5冊の本を読む
堀さんは国語教師ということもあり、かなりの読書家です。年間250冊~300冊を読む生活を30年以上続けているそうです(128ページ)。以前読んだ和田秀樹さんの『人生に差がつく時間の作り方・活かし方』で「本は、自分が必要なページを読むだけで十分」と書かれていて「なるほど」と思ったのですが、堀さんも、面白くなかった本やり無益だと思われる本は途中で読むのをやめるそうです。時間は有限なので、これは読書家の常識なのかもしれません。
そして、堀さんはジャンルの違う本を5冊、同時進行で読んでいくそうです。これはユニークだと思いました。堀さんはご自身が予備校に通っていたとき、講義中に先生がした雑談の中に5冊同時進行の読書法のことがあり、それを大学生以降の生活に取り入れたのだそうです。書斎用、ベッドで就寝前用、通勤時間用、トイレで読む用、学校の空き時間用に分けているそうです。5冊を同時進行で読む効果としては、「別の本で同じことが書かれていた」とか「正反対の主張がされていた」とか、それぞれの本の印象が強まって、自分の思考が活性化されると堀さんは述べています(130ページ)。
それから、就寝前に面白くない本を読んでいると「スーッと眠りに就くことができる」という効果が述べられていて、笑えました。
本書には、長時間労働の問題は指摘される教員の働き方のヒントとなることが多く書かれていて、とても参考になりました。仕事を終える時間を決めるのは、いわゆる「ケツカッチン仕事術」だと思いますが、教員の働き方としても、これが有効だということが分かりました。手帳でスケジュールを管理し、次年度の仕事の質を高める記録としても活用できるということも分かりました。現職の教員のかたや、これから教員を目指すかたに一読をオススメします。