アドラー心理学は職場の対人関係に活かせるか?

岸見一郎・他 著『仕事の教科書』
(徳間書店、2019年)

 仕事で大きな成果をあげている人たちがどのようなことに気をつけているのか、ということに興味があります。本書『仕事の教科書』には、ビジネスの世界で有名な著者11人が仕事上の秘訣を公開してくれた本です。内容が盛りだくさんなので章ごとにレビューしていきたいと思います。
今回は本書に集録されている記事から岸見一郎さんの「人間関係を築きながら仕事をうまく進める方法」です。
 岸見一郎さんは全世界で500万部の大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者で、アドラー心理学を専門的に研究されています。
 本書を読んで私が特に勉強になったのは以下の4点です。

1. アドラー心理学は「叱る」「罰する」を否定

 アドラーは子どもや部下が失敗したり問題行動を起こした場合に叱ったり、罰したりすることを否定しています。この点を私は知りませんでした。そもそも私はアドラー心理学のことをほとんど勉強したことがありませんでした。
 アドラーの考え方では、叱るという行為は相手との距離を遠くすることです(450ページ)。相手との距離が遠くなると、正しいことを言っても聞いてもらえなくなる。
 アドラー的には、叱るのではなく、言葉で教えるのが正解ということです。叱らないで実際の人間関係が回るのかどうか、これは難しいところだと思いますが、アドラー心理学では「叱る」ことが否定されているという知識を得られたことは、本書を読んでよかったと思いました。

2. 「勇気」というキーワード

 アドラー心理学のキーワードの1つに「勇気」があります。岸見さんの著書『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の題名にも入っています。
 岸見さんは「仕事に取り組む勇気」と「対人関係の中に入っていく勇気」を解説しています(462ページ)。仕事に取り組むと「結果」が明らかになるので、その現実を受け入れることが必要になります。これには「勇気」が必要になります。
 また、対人関係に入っていくと、いろいろな摩擦が起こります。嫌われる、憎まれる、裏切られる、傷つく、いじめられる、などの摩擦です。
 しかし、アドラーは、対人関係なしには喜びや幸せもあり得ないと考えます。そこで「勇気」が必要になります。
 私は、この解説を読んで、なぜアドラー心理学のキーワードに「勇気」は入っているのかが分かった気がしました。

3. 望ましい対人関係の4つの条件

 アドラー心理学では、望ましい対人関係の条件として次の4つを想定しています(471ページ)。

①相互尊敬、②相互信頼、③協力作業、④目標の一致

どの条件も重要だということはすぐに理解できそうです。そして、③や④を見ると、アドラー心理学は職場の人間関係、仕事上の人間関係を強く意識した心理学だと思いました。

4. 「今ここ」を生きることが重要

 大切なのは、過去と未来を手放すことも勇気が必要なことです(487ページ)。過去のことをいつまでも後悔しない。未来のことを考えて不安にならないことが重要です。これもアドラー心理学の大きな教えだと感じました。
 私は岸見さんのこの記事を、アドラー心理学のエッセンスを学べる入門的な文章として読ませていただきました。とても勉強になりました。

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