子どもたちの「孤独と空腹」をなくす! 中本忠子さんの闘い

中本忠子 著『あんた、ご飯食うたん?』
(株式会社カンゼン、2017年)

 以前、NHKで中本忠子(なかもと・ちかこ)さんのドキュメンタリー番組を観たことがありました。「広島のばっちゃん」と呼ばれて、非行少年の社会復帰を支援する活動をされている方の番組でした。アパートの1室で子ども食堂のように食事を食べさせて、非行少年たちと交流している様子が描かれていました。その内容を詳しく知るために本書を読んでみました。
 本書の著者、中本さんは保護観察の非行少年を世話する保護司をされていた方です。中本さんは「食べて語ろう会」というNPO法人の理事長もされていて、その活動が評価されて法務省からも表彰されています。私は中本さんの活動を知ったのはNHKの番組でしたが、その時、「子どもが悪さをするのはお腹が空いているからだ」というようなことを述べておられたのが印象に残っていました。
本書を読んで私が特に勉強になったのは以下の3点です。

1. 孤独と空腹が犯罪のもとになる

 中本さんはPTA役員だった時、人に誘われて1980年から保護司になりました。保護司として何をするのかは研修を受けたそうですが、詳しくしらないまま保護司の活動を始めたそうです。
 保護司になって2年目に中学2年生の少年を担当し、その少年から「空腹を紛らわすためにシンナーを吸う」という話を聞いたそうです(17ページ)。このことが、非行少年たちに食事を提供する活動を始める原点になっています。実際に、その少年にご飯を食べさせるようにしたら、一ヵ月もたたないうちにシンナーをやめ、やがて学校にも行くようになったそうです。
 「孤独と空腹が犯罪のもとになる、というのが私の持論」と中本さんは言っています(127ページ)。だからお腹いっぱい食べて、人と関われるようにするといい。食事を提供するというのは、その両方を同時に行なえる活動なのだなと思いました。

2. 給食費も払えないほどの貧困が日本にある

 日本は豊かな国だという漠然とした印象がありますが、中本さんと少年たちとの話からは、給食費も払えないほどの貧困があるということが分かります(84ページ)。そういう子どもは学校でも肩身が狭いだろうと想像します。
 また、そういう子どもは「小さいころから周囲の大人に白眼視され、野良犬のようにいらないもの扱いされながら生きてきた」と中本さんは述べています(68ページ)。
 そして、そういう子どもは、自分を疑う大人に対して非常に敏感なのだそうです。だからこそ、お世辞を言っても見抜かれるし、同情しても心を開いてはくれないそうです。
 警察ならば疑うことが必要だけれども、元・保護司であり「食べて語ろう会」の活動をする中本さんは、子どもを信じることを大切にしているそうです(69ページ)。これはなかなかできることではないが、だからこそ、いろいろな表彰を受けるに値する活動なのだろうと思いました。

3. 生まれた家庭環境を変えることはできない

 非行少年たちは、親が刑務所に入っているようなケースもあり、親のせいで不幸な目にあっているという側面があります(145ページ)。自分の境遇に怒る子どもはとても多いそうです。中本さんは、彼らに対して、「その親のもとで生まれたことは、もう、どうすることもできない。でも、生きざま、生き方は変えることができる、と伝えるように努めているそうです。もちろん、これは時間がかかることですが、中本さんは子どもたちをしっかり見ていると述べています。
 本書を読んで、テレビ番組で観たときよりも、中本さんの考えや少年たちとの交流の様子が詳しく分かったように思いました。本書の副題は「子どもの心を開く大人の向き合い方」ですが、本当に時間のかかる、そして根気のいる向き合い方をしておられるのだと感じました。

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