空き家問題の「なぜ?」に切り込む

牧野知弘 著『空き家問題――1000万戸の衝撃』
(祥伝社、2014年)

たしかに、よく見かける

 庭の草が高くなっていたりカーテンを閉めきっていたりして人の気配のない家をあちこちでみかけます。ある日、急に重機が入って整地(せいち)工事が始まって新しい家が建つところもありますが、何年も空き家のままのところもよくみかけます。空き家問題は今後ますます深刻になるかもしれないと思い本書を手にとってみました。

空き家が増えていく構造

 本書の著者は三井不動産に勤務していた経験もある不動産アドバイザーの牧野知弘氏です。本書は毎年20万戸の勢いで急増している(51ページ)という空き家問題の現状や社会背景を分析し対応策を提言した本です。
 空き家が増える社会背景の中では、日本社会の少子高齢化にともなう高齢者世帯の増加が大きいと牧野氏は指摘しています(32ページ)。昭和58年(1983年)を100とすると平成20年(2008年)には高齢者単身の世帯が420にまで増加しています(29ページ)。つまり、高度経済成長期以降の核家族化の影響として夫婦と子供2人ぐらいの世帯が増えたが、子供の独立や配偶者との死別などによって高齢者単身世帯が増加したというわけです。そして、この状況に建物と土地という不動産が「売れない」「貸せない」という問題、相続税をはじめとする税金の問題、建物の解体費用の問題などが複合的に絡んで、空き家が増加するという構造が指摘されています(85ページ)。このような事情については断片的には聞いたことがありましたが、専門家による説得力ある分析だと感心しました。

「私権」という壁が


 本書の後半では空き家問題への牧野氏の提言が示されます。すでに自治体が進めている老朽化建物の管理に関する条例だけでなく、高齢者層のリタイヤ後のニーズを見込んで空き家をシェアハウスに転用を進めることや、介護施設への転用などが提言されています。それだけでなく、空き家に大きな課税をして不動産取引を流動化することや、空き家の多い地域の市街地再開発にも踏み込むことも提言されています。これには空き家の持ち主の不動産所有権という壁が立ちはだかります。日本は民主主義国家なので所有権など私権が大きく制限されることには抵抗が予想されることは牧野氏も十分承知しています(219ページ)。空き家問題の将来を考えると、私権という壁によって、日本の国土が「何にも利用されない荒れ果てた野原に戻ってしまう恐れ」があると本書は訴えています。

さらに深めた考察へ

 本書を読むと、空き家問題に日本社会の少子高齢化を背景として不動産取引、課税のあり方、私権(しけん)制限(せいげん)など重要な論点が幅広く関係していることが分かります。総務省のウェブサイトを見ると、空き家率の推移などの情報も出ていますので参考になります。現実に少子高齢化は今後も進むと考えられます。本書で提言されている空き家問題への対応策について牧野氏以外の意見も探しながら、例えば高崎経済大学地域科学研究所編『空き家問題の背景と対策――未利用不動産の有効活用』(日本経済評論社、2019年)なども参照しながら考えてみることをオススメします。

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