犯罪加害者の家族はどうなるのか?

鈴木伸元 著『加害者家族』
(幻冬舎、2010年)

 以前、東野圭吾の小説『手紙』を読みましたが、この小説は兄が強盗殺人を犯してしまった弟の苦悩の日々を描いたもので、まさに加害者家族の問題を取り扱った作品でした。今回は、加害者家族の問題をジャーナリストの視点から論じた本書を読んでみました。
 本書の著者、鈴木伸元さんはNHKのディレクターで「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」などの報道番組を担当してきたジャーナリストです。鈴木さんも東野圭吾さんの小説『手紙』を読んだということが本書の「あとがき」で述べられていました(199ページ)。

取材攻勢と好奇の目

 本書のテーマである加害者家族の問題を具体的に考えていくために、本書の第2章では1988年に宮﨑勤元死刑囚が起こした連続幼女誘拐殺人事件や2000年の和歌山毒物カレー事件など多くの有名な事件の加害者家族のその後のことが書かれています。どの加害者家族もマスコミの取材攻勢に会い、世間の好奇の目にさらされ、孤立していった様子が分かりました。

応報感情の根強さ

 ただ、考えさせられたのは、たとえば2003年に起きた長崎男児誘拐殺人事件の後に、この時の防災担当大臣であった鴻池(こうのいけ)祥肇(よしただ)さんが、「こうした少年事件に対して厳しい罰則を作るべきだ。加害者の少年を罪に問えないのならば、親を市中引き回しにした上で打ち首にすればよい」と発言していたことです(81ページ)。私は、これはさすがに時代錯誤(さくご)で行き過ぎた発言だと思いました。本書の著者の鈴木さんも「打ち首」「引き回し」が江戸時代の刑罰だったことを指摘し、現代人の感覚や法制度とはかけ離れていることを指摘しています。私も以前、廣瀬健二さんの『少年法入門』を読んだことがありましたので、鴻池大臣は21世紀の日本の法制度を知っていたのか疑問に思いました。ところが、鴻池大臣の事務所には、その発言を支持する電話やメールが多く寄せられたということも本書で初めて知りました。鈴木さんは、このような反応は、両親をひきずり出せという「応報」の感情が、日本社会に根強く存在していることを示していると述べています(82ページ)。

イギリス、オーストラリアには加害者家族を支援する組織が

 本書の後半では、加害者家族とどのように向き合っていくべきなのかを考え、行動する欧米諸国のグループの活動が紹介されています。イギリスでは加害者家族を支援するNGO組織があり、この組織は、加害者家族をサポートしていくことが再犯防止につながり、それが社会全体の利益になるという考えのもとに活動し、年間25万以上の加害者家族と関わりをもっています(175ページ)。
 また、オーストラリアのシドニーには受刑者の子どもを支援する組織があり、シドニー当局から資金面で援助を受けているということから、かなり公的に認められた組織だということが分かりました(179ページ)。

日本にも

 では、日本の場合はどうでしょうか? 日本でも2008年に加害者家族に関わる市民団体ワールドオープンハートが設立され、仙台を拠点にして活動しているそうです(185ページ)。私はこのことは全く知りませんでした。この団体は月に1回程度、加害者家族の対話の場を設けているそうです。ただ、この団体は加害者家族の人権とか権利を主張するというのではなく、むしろ被害者支援にきちんと力を入れたうえで、加害者家族についても考えていこうとしているそうです(188ページ)。1つの事件から、これ以上、犠牲者を出したくないという思いがこの団体のメンバーにはあるようです。
 著者の鈴木さんは、加害者家族とどう向き合っていけばよいのか、容易には答えが出ないと指摘しています(192ページ)。ワールドオープンハートは、まさに容易には答えが出ない中で、手さぐりで活動していっているのだと思いました。鈴木さんは、加害者家族への向き合い方を次のように3つに分類して整理しています。①加害者家族に社会的制裁をするのは当然であるとする立場、②加害者家族を支えることは、加害者が出所した際の受け皿を作ることになり、再犯防止につながる、③多くの加害者家族は困窮に直面するのだから、彼らに救いの手を差し伸べるべきだ。日本では①の立場に立つ人が多いのが現状で、②の立場の人は理論が先行している傾向があり、③は理論よりも実践を重視する立場、というのが鈴木さんの分析で、本書では①②③のどれが正解かということは提示されていません。私も、そう簡単には答えが出せない問題だと感じます。


 今後、いろいろな事件についてのニュースが報道された際には、事件の被害者や加害者だけでなく、その家族の問題のことにも視野を広げて考えていきたいと思いました。また、インターネットを通じた加害者家族のバッシングが暴走気味になりがちなことには注意を払って冷静に考えていければと思いました。

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