成人年齢が18歳に! 少年法は?

廣瀬健二 著『少年法入門』
(岩波書店、2021年)

 2022年4月から成人年齢が18歳になりました。18歳以上は大人として取り扱われるということですが、これにともなって何か具体的な変化があるのか、ピンと来ないまま過ごしてきました。新聞広告で本書が紹介されていたのですが、未成年と成年(大人)を分けて取り扱ったきた法令の代表例として少年法があります。未成年者に対して特別な扱いをしてきた少年法の内容を知り、成人年齢が18歳になる影響についても勉強してみようと思いました。

「特定少年」というカテゴリーが新設された

 本書の著者、廣瀬健二さんは、裁判官として少年事件を担当した経験を豊富に持ち、外国の少年裁判制度についても調査を続けている法学者です。本書は少年法の入門書ですが、裁判官としての実務経験から得られた具体的な知見がつまった一冊です。
 少年法は20歳未満の者を対象とする法律ですので、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられることに合わせて「少年」の範囲を18歳未満に引き下げるという議論が法律関係者のあいだで行われました。18歳、19歳の者が少年法の対象から外されるというのは、大きい変化だと思います。議論の結果、18歳と19歳の者は「特定少年」とされ、成人と全く同等とするのではなく、成人と未成年者との中間的な扱いとなるということが決まったそうです(192ページ)。「特定少年」に対しては、未成年者に対して行われてきた家庭裁判所での調査・審判のあり方は基本的に維持しつつ、正式に起訴された後の扱いは成人と変わらないこととする、など2022年4月から制度的な変化があったそうです。

加害者か、被害者か?


 本書は少年法の入門書なので基本的な事柄もしっかりと解説してくれています。その1つは、少年法というものが、刑罰、刑事裁判制度に、少年の特性を考慮した特則(とくそく)を定めたものだということです(4ページ)。少年の特性とは、①成長・発達途上にあること、②保護・教育的な対応をすることによって再犯防止や社会復帰が期待できること、③成人よりは社会的に寛容な対応が期待できること、④物事を判断する力が成人よりも弱いため、事件に対する責任や非難も成人よりも軽くなる、などが挙げられています(6ページ)。
 しかし、④については殺人のような重大な事件を起こした場合には疑問があるというのも確かで、それが少年法に対する批判の大きな論点となっています。この点に関して廣瀬さんは次のように述べています。「非行少年たちは、犯罪や非行をして他人の権利・利益を侵害し、社会にも種々の迷惑を及ぼした加害者です。厳しく責める意見が多いのは当然です。しかし、非行少年たちは、本人の抱えている問題や親などの周りの大人たちの不適切な養育、疎外、虐待などを受けている場合が多いので、実質的には被害者的な面がある者が多いのも紛れもない事実です。」(213ページ)。事件を起こした未成年者は「加害者であるとともに被害者」ということだと思います。廣瀬氏は、このような思いで裁判官を務めてこられたのだと思いました。

刑罰より少年法のほうが厳しい?


 そして重要だと思ったのは、少年院では「個別・専門的な指導をマンツーマンに近い形で担当教官から常時厳格、濃密に」受けているそうで、成人と同等の刑事手続・刑罰にしてしまうと「助かった、ラッキー」と思われてしまうというケースもあると廣瀬さんは述べています(201ページ)。少年法の手続きではなく、刑罰・刑事事件の手続きにしてほしいと事件を起こした少年のほうから言われたこともあるそうです(199ページ)。こういう実状は、本書を読む前には知りませんでした。

 本書を読むと18歳への成人年齢の引き下げの影響のことだけでなく、少年法の理念や課題についても知ることができます。事件を起こした少年には「もっと厳罰を!」という意見があることも確かで、そうした意見をどのように反映させていくのかも課題の1つです。また、少年院で行われている矯正(きょうせい)教育(きょういく)の内容についても詳しく説明されていますので、おススメの1冊です。

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