平成の家族の姿をデータから

湯沢雍彦 著『データで読む平成期の家族問題――四半世紀で昭和とどう変わったか』
(朝日新聞出版、2014年)

 2019年5月1日に元号が平成から令和に変わりました。平成が始まったのが1989年ですから30年の平成の間に変わったものは何なのでしょうか。それをデータで確かめられる本があるということで読んでみることにしました。

テレホンカードが年3億枚売れていた!

 本書の著者、湯沢雍彦さんは家庭裁判所の調査官の経験もある研究者で、専門は家族法社会学です。(本書が出版されたのは2014年ですので、平成最後の5年のデータは含まれていません。)
 本書の裏表紙に書かれていますが、平成2年(1990年)のテレホンカード販売数は3億4000万枚で、この年がピークだったそうです。「そういえばあったな、テレホンカード」と懐かしくなりました。その後、ポケベルを経て今では携帯電話、特にスマートホンが大いに普及しています。電車の中ではみんなスマホを見ているイメージです。平成期を通じて携帯電話が普及し、街中や新幹線の中の公衆電話は減っていきました。

好景気から不況へ


 さて、平成の経済状況ですが、平成8年(1996年)までは世帯あたりの平均所得が増えていった時期で、平成9年(1997年)以降は減っていったと湯沢氏は指摘しています(12ページ)。データとしては平成元年(1989年)の世帯あたり平均所得は567万円、平成8年(1996年)は661万円と増えています。平成9年(1997年)は658万円ですが、平成23年(平成23年)は548万円と減り、平成元年よりも低くなっています。
 このような経済状況に関連して、失業率が平成元年の2.3%から平成23年の4.5%に上昇、非正規雇用者率が平成元年の19%から平成23年の35%に上昇、など平成期を通じて悪化しているデータが示されています。
 家族生活に関連するデータとしては新生児の出生数が平成元年の125万人から平成23年の105万人に減少し、少子化傾向にあることが確かめられます。

一人暮らしの割合が増加した

 それから少し驚いたのは、「世帯構成」に関するデータで平成22年(2010年)には単独世帯、つまり1人暮らしが32.4%となっており、3人に1人は一人暮らしだということです(32ページ)。平成2年(1990年)には23.1%でしたので、4人に1人の割合でした(29ページ)。一人暮らしの割合は増えています。

離婚データについての仮説


 平成期の離婚は少し複雑な傾向がみられるようです。まず、世界的にみて日本は離婚が多い国ではなく、先進国の中ではイタリアに次ぐ低さのようです(47ページ)。そのうえで平成期を眺めると、平成元年(1989年)から平成14年(2002年)までは離婚件数が15万8000件から29万件に増加しました。人口1000人あたりの離婚率も1.29から2.30まで上昇しています。ところが、平成15年(2003年)から下降に転じて、平成23年(2011年)には離婚件数が23万6000件、離婚率は1.87にまで減少しました。
 この変化について湯沢氏は次のよう分析しています。世帯あたりの平均所得が増えていった平成8年までの時期の5年から7年遅れで離婚件数、離婚率が上昇傾向を示し、平成9年以降の世帯あたり平均所得の減少の5年から7年遅れで離婚件数、離婚率が下降傾向となった、と。湯沢氏は「所得の上昇は離婚増を促し、所得の減少は離婚減を促すといえそうである。それはおそらく、離婚後に自立できるか否かの女性側の決断に関係しているのではないだろうか。」
 離婚の原因は個々のケースで異なりますので、一概に言えないところはあると思いますが、大胆な仮説をもとにした興味深い指摘だと思いました。

さて、令和の家族は?

 本書に示されているデータは家族の動向をとても具体的に表している数値で、重要なものが多いのでオススメの一冊です。平成の最後の5年のデータは本書には出ていませんが、それはネットなどを検索することで補うことができます。本書で得た知識をもとに令和の家族像についても注目していきたいと思います。

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