孫正義さんの影響を受けた独学術

三木雄信 著『ムダな努力を一切しない最速独学術』
(PHP研究所、2021年)

 柳川範之『東大教授が教える独学勉強法』、ひろゆきさんの『無敵の独学術』に続いて独学に関する本書を読んでみました。本書の著者、三木雄信さんはビジネスマン向けの英語教育を行う会社を経営している方ですので、それが本書の特徴になると思います。

孫正義さんの「人生50年計画」

 本書の著者、三木雄信さんは以前、IT大手のソフトバンクの社員だったこともあり、本書にはソフトバンクの孫(そん)正義(まさよし)社長の経営方針や人間性が表れているエピソードがたくさん記されています。その1つが、孫社長が19歳の時に立てた「人生50年計画」です。孫社長は20代で業界に名乗りを上げ、30代で軍資金を貯め、40代でひと勝負して大きな事業に打って出て、50代で事業をある程度完成させ、60代で事業を次の経営陣に引き継ぐというものだったそうです(49ページ)。私はこれを初めて知りましたが、実際にソフトバンクは大きくなり、孫さんは2022年で60代ですので、ソフトバンクの事業を次の経営陣に引き継いでいる段階なのだと思いました。
 さて、ソフトバンク時代の三木さんが孫さんから繰り返し言われていたこととして「登る前に山を決めろ」という言葉が本書に紹介されています(52ページ)。これは最初に「目指す山」すなわちゴールをはっきりさせることが重要だということです。はっきりとしたゴールを設定しなければ、そこに向かう計画を立てることができないので結局は何も得られない、ということを三木さんは独学の注意点として提示しているのです。

目標設定に対する違い

 このように三木さんの意見は、以前読んだ柳川(やながわ)範之(のりゆき)さんの『東大教授が教える独学勉強法』とは大きく異ると思いました。柳川さんの場合、勉強の「目標」を「ゆるく」設定することがモチベーションを維持するコツだと述べていました。具体的には、①学んだ先にある少し遠い自分の姿をイメージする、②目標設定は「仮(かり)」の意識で行う、③目標達成は3割でよしとする、というものです。三木さんの場合、基本的に英語をマスターすることが基本的に念頭におかれており、それ以外の事例では「宅建」などの資格試験や高校・大学などの受験も主要な事例となっています(127ページ)。しかし、柳川さんの場合は経済学などの学術研究を主要に想定した独学のことを述べておられる、という違いがあることがはっきりしました。

「メタ学習」が必要

 三木さんの『ムダな努力を一切しない最速独学術』を読んで重要だと思ったことの1つは、「学習方法を学習する」あるいは「メタ学習」が必要だと述べておられることです(112ページ)。スタート地点が同じぐらいの人の成功事例から、その分野の学習ノウハウに関する情報を得ることで効率よく勉強していくということです。学習ノウハウの中には参考書・問題集などが含まれますが、ネット上の口コミは、たまたまその人のレベルに合っていなかっただけの可能性がかなりあるので、実際に書店に足を運んで自分に合いそうな参考書・問題集なのか確かめることが重要だと三木さんは述べています(117ページ)。また、知り合いからの情報も信頼性が高いということです。

ポイントは朝時間

 もう1つ、重要だと思ったのは、学習スケジュールを立てて習慣化する、ということです。1日の中でどのように時間を確保するかを考え、継続的に取り組むことがゴールにたどり着くためにはどうしても必要になります(157ページ)。三木さんは、ポイントは朝の時間の使い方だと指摘しています(159ページ)。特に社会人の場合にあてはまるのですが、夜のスケジュールは完全にはコントロールできないことに注意すべきだという三木さんの指摘な、「なるほど」と思いました。残業などの急な用事、飲み会、家庭に関する用事などは夜に入ることが多いのに比べて、朝の方が比較的コントロールしやすいので、朝を活用して学習スケジュールをこなし、「計画通りにできた!」という成功体験を積み重ねることでモチベーションを維持する秘訣だと三木さんは述べています(160ページ)。

すきま時間と習慣化

 その他のコツとして、通勤時間などの「隙間(すきま)時間」を大いに活用すること、1週間単位でスケジューリングし、1週間の中で帳尻を合わせながら進めること、スケジュール通りに進んでいるかを自分なりに評価し、次週のスケジュール作成を行うというフィードバックを繰り返すというのも紹介されています。そして、スケジュール進行の評価をネガティブに受け止めず、小さな成功体験を積み重ねて、自信を得ながら継続していくという方法が本書では紹介されています。


 何かを学ぶためには、ある程度の期間、継続して取り組む必要があるので、本書で指摘されているように学習スケジュールを立てて習慣化するというのはとても重要だと思いました。また、ゴールを明確化するというのは、検定試験の場合などはかなり明確にしやすいですが、学術研究の場合などは最初からは明確にしにくいのかも知れないということも本書を読んで得られた知見でした。今後、何かのゴールを設定する際には、このことを意識して検討していこうと思いました。

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