独学のコツは「ゆるさ」にあり!?
柳川範之 著『東大教授が教える独学勉強法』
(草思社、2017年)
読書は一種の独学ですが
本を読むこと、読書することは知識や教養を得るための基本だと言われます。社会人になってからの読書は一種の独学だと思いますが、読書を通じて独学していく時にはどのようなことに気をつければいいのでしょうか。本書の題名に惹(ひ)かれて手にとってみました。
著者の独学体験から(ブラジル、シンガポール)
著者の柳川氏は中学卒業後、父親の転勤にともなってブラジルに住むこととなりましたが、ポルトガル語が公用語であることから現地の学校にいくのではなく日本から持ち込んだ参考書や教科書をもとに自分で独学をする選択をしました。独学で日本の大学入学検定試験に合格し、今度は父親のシンガポール転勤にともなって慶応義塾大学経済学部の通信教育課程で学び、現在は東京大学経済学部の教授をされています。本書は、そんな柳川氏の独学ノウハウが詰まった一冊です。
自分に合わない本はさっさと捨てる
本書を読んで「なるほど」と思ったのは、独学を続けるためには、挫折をしない工夫が必要だという柳川氏の考えです。特に自分に合った勉強法を探しながら勉強を進めること(73ページ)。長時間勉強すれば頭が良くなるという前提は捨てる必要があるし、資格試験の勉強のように、やるべきことが決まっているわけではないのが独学です。柳川氏は、評判の良い本でも自分に合わなければさっさと捨て、買った本の3割が使えればいいという感覚で自分に合う参考書を探したそうです。
「何がわかっていないのか」を探す
そして、偉い先生が言ったことを鵜呑(うの)みにするのではなく、教科書や本で得た知識をもう一度自分なりに組み立てて、反論も含めて考えていくことが学びの本質だと柳川氏は述べています(81ページ)。そして、大学生の卒業論文で必要になるのがテーマの立て方や探し方のノウハウですが、柳川氏は、「何がよくわかっていないのか」「何がうまくいっていないのか」という視点でこれまでの学問・研究の蓄積をながめてみることが大切だと述べています。この視点をもつと実は世の中はわかっていないことだらけだと柳川氏は言います。
「仮」の目標設定、達成率3割でもOK
そして、独学を成功させるための柳川氏の工夫として勉強の「目標」についての「ゆるい」考え方があることが一番印象的でした。それは①学んだ先にある少し遠い自分の姿をイメージする(92ページ)。②目標設定は「仮(かり)」の意識で行う(100ページ)。③目標達成は3割でよしとする(96ページ)などです。これらはすべて、やる気を持続させるためのものです。詳しい説明は本書の本文に譲りますが、とても参考になりました。
ネットの普及によってさまざまな情報があふれていますが、情報に振り回されない基準をもつために学ぶこと、学問を身につけることが重要だと本書では述べられています(22ページ)。とても共感します。ネット社会と独学は相性(あいしょう)がいいとも感じます。このブログの読書案内がネット社会の教養・学問に役立つのであれば幸いです。