「在野史家」の独学術が公開されています!
礫川全次 著『独学の冒険 ―― 浪費する情報から知の発見へ』
(批評社、2015年)
独学というテーマに関して柳川(やながわ)範之(のりゆき)の『東大教授が教える独学勉強法』、ひろゆきさんの『無敵の独学術』、三木(みき)雄信(たけのぶ)さんの『ムダな努力を一切しない最速独学術』と3冊読んできましたが、今回は礫川(こいしかわ)全次(ぜんじ)さんの『独学の冒険』を読んでみました。
本書の著者、礫川全次さんは主に日本史を研究されている研究者で、大学などの研究機関に属さない、いわば「在野史家」です。
本書は、独学で学問研究をし、その成果を発表したいとこころざす人向けに書かれ、礫川さんご自身のノウハウを紹介するとともに、独学で学問研究の成果をあげた歴史上の人物のエピソードなどを紹介してくれている本です。ただし、大学入試や資格試験の突破を目指したり、技術、芸術、スポーツ、芸能を独学・独習したりすることは本書の対象にはなっていません。
シガラミのない学問研究
礫川さんは、大学のようなアカデミズムの世界にある独特のシガラミにとらわれずに、自分の関心のあるテーマを自分の発想で追究していけることが独学による学問研究の大きな魅力だと言います(4ページ)。逆に、アカデミズムと無縁であることは、研究の助言を得ることができない、研究発表の場がない、などの不利な面もあります。その不利な面を補うため本書には「Q&A――独学者の悩みに答える」というページがあり、礫川さんによる独学のノウハウが紹介されています。ここにはとても参考になるものがありました。たとえば、「Q4. 研究テーマは持っているが、資料や文献がない。集め方を教えてもらいたい。」では、まず「○○学入門」とか「○○研究案内」といった類の本を探し、そこにある「参考文献」のところにある「これは、読んでおくべきだろう」と思うものを入手して読んでみる。次に、その文献の「参考文献」のところから「これは、読んでおくべきだろう」と思うものを入手して読む、という作業を繰り返すというノウハウが紹介されています(19ページ)。これはとても重要なことだと思いました。
文章修行としてブログを毎日更新
また、購入するためのお金が不足している場合には公共の図書館を利用することも推奨されていますし、インターネットや古書店の活用法(Q7, Q8)なども詳しく解説されています。
そして「Q15. 知人からブログの開設を勧められた。やってみる価値はあるか。」という質問に対して、「ぜひ、ブログを開設されるようお勧めします。」と解答され、「礫川全次のコラムと名言」というご自身のブログも紹介されています(55ページ)。礫川さんはブログ開設のメリットとして、文章の良い練習になることや、ブログが「研究日誌」やファイルの役目を果たし、出版の代わりにもなること、ブログが未知の人々との交流媒体になることをあげています。礫川さんは「ただし、ブログは、毎日、更新しなければなりません。書くことがなくなったといって、更新を怠ってはなりません。」と言い、これは一種の文章修行だと言っています(54ページ)。毎日の更新はなかなかたいへんだと思いますが、「礫川全次のコラムと名言」を拝見したところ、お言葉通り、毎日更新されているようでした。まさに「有言実行」で、すばらしいと思いました。
独学者の列伝からの教訓も
さて、本書には日本民俗学の創始者、柳田(やなぎた)國男(くにお)や、日本史学者で教科書裁判を闘ったことでも有名になった家永(いえなが)三郎(さぶろう)、地理学者の千葉(ちば)徳爾(とくじ)ら、「独学者」という傾向の強かった研究者たちのエピソードが紹介され、たとえば「最初の発想を大切にせよ」「一冊の本との出会いを大切に」「研究の手法は先達に学べ」など、独学をしていくうえでの教訓が引き出されています。これらの教訓はとても説得力があると思いました。
「独学者にすすめる100冊の本」があげられ、主に日本史や民俗学の分野から100冊が紹介されています。私も戦国時代など日本史は大好きなので、この中から何冊か入手して読んでみたいと思いました。たとえば、千葉徳爾『切腹の話』などは面白そうなので読んでみたいです。