不登校・ひきこもり問題に30年以上向き合って得られた知見とは?

杉浦孝宣 著『不登校・ひきこもりの9割は治せる――1万人を立ち直らせてきた3つのステップ』
(光文社、2019年)

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不登校という難題

 不登校はかなり前から問題となっており、実際に不登校になった人も目にしてきましたが、立ち直らせるのは本当に難しいのだろうなと感じていました。なぜ不登校になってしまうのか。どのようにしたら不登校は防げるのか。不登校になってしまった後の生活ではどのような困難があるのだろうか。不登校問題に関してはいろいろなことが疑問だらけでした。

 本書の著者は1985年に中卒浪人生のための学習塾を設立し、2010年からはNPO法人も設立して30年以上にわたって不登校、高校中退、ひきこもりの支援活動を行っている杉浦孝宣氏です。本書を読んで不登校とひきこもりの問題に関して私が得られた知識には以下のようなものがあります。

1. 不登校・ひきこもりになりやすいタイミングは4回ある

  •  それは①中1、②高1、③浪人と大学中退、④就職活動の時期、の4回です(39ページ)。著者はこれを指導の経験と各種の統計から導き出しています。②~④について今回は省略しますが、①の中1について紹介すると、著者は小学校と中学校の大きな違いに注目しています。中学には部活動が本格化し、それにともなって先輩のしごきがあったり敬語を使ったりする「縦社会の厳しさ」を指摘しています。また、これに学業不振の問題が重なってきます。小学校であまり重視されていなかった英語でつまずく生徒が多いと著者は指摘しています(40ページ)

2. 父親の関わりが重要

  •  杉浦氏は、不登校・ひきこもりを防ぐには親の関わり方、特に父親の関わり方がとても重要だと述べています(109ページ)。「仕事が忙しいから子どものことは妻に任せている」という姿勢の父親がとても多いのが現状だということです。本書が発行された2019年には元農林水産省事務(じむ)次官(じかん)の父親が、ひきこもりだった無職の長男(44歳)を練馬区の自宅で刺し殺す事件が起きましたが、この長男は働いてもいないのに月30万円以上もクレジットカードを使用していたそうです。杉浦氏は、この事件のように親、特に父親が子どもに対して本気でぶつからず、甘い対応をし、子どもが生活に困らない状況を放置していることがひきこもり問題の本質だと指摘しています(129ページ)。この事件ばかりでなく、母親が働いている場合、昼食用に毎日1000円を置いていったり、「〇〇を買ってきて」と子どもに言われてその通りに買ってきたりする親も少なくないと杉浦氏は述べています(130ページ)。お金がなければ自分で働く必要が出てきて、それが外出のきっかけにもなります。なるほどと思いました。

3. ひきこもり経験者と話す機会が重要

  •  不登校やひきこもりになっている子どもにとって大学生や大人は会話する相手として非常にハードルが高いという指摘(142ページ)はとても重要だと思いました。不登校・ひきこもりの子どもは自己評価が低いので大学生は自分とは違ったステージの人だと感じられるということです。杉浦氏の塾では、不登校・ひきこもりから立ち直った若者を雇用していて、彼らをベテランスタッフとともに自宅に訪問させて会話を続けることでひきこもりからの立ち直りを支援するのだそうです。
  • このような訪問を糸口として①規則正しい生活→②自律して自信をつける→③社会貢献をする、というのが杉浦氏の30年以上の経験から編み出されたステップで、①は昼夜逆転の生活を直すことや入浴、歯磨きなどとても基本的な生活習慣のところまで立ち戻っての支援です。このステップを踏むことで9割の子どもが立ち直れるということです(140ページ)。

8050問題

 2018年に内閣府が行った調査では15歳~39歳までのひきこもりは54万人、40歳~64歳までの中高年のひきこもりが61万人います(6ページ)。これは80代の親が50代のひきこもりの子どもを抱えて困窮(こんきゅう)する「8050(はちまるごーまる)問題」につながってしまいます。本書は、このような日本社会の問題に対するとても貴重な知見(ちけん)が詰まっていますので、実際に不登校・ひきこもりに関わっている当事者、保護者、支援者の方に是非オススメします。

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