自分をアップデート(更新)する読書

池澤夏樹 著『知の仕事術』
(集英社インターナショナル、2017年)

池澤さんの仕事ノウハウが公開された!

 池澤(いけざわ)夏樹(なつき)さんの本は何年か前に小説『マシアス・ギリの失脚』を読んでとても面白かったです。新聞の連載コラムを読む機会があったり、河出書房新社の『世界文学全集』や『日本文学全集』を個人編集したことを知ったり、たいへん博識な作家さんだと感じていました。そんな池澤さんの作家業のノウハウを公開した本が出るというのを新聞広告で知り、手にとってみました。

 本書の著者、池澤夏樹さんは1945年生まれの作家・詩人で、芥川賞を受賞し、私が読んだ『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞も受賞しています。

1. 本の探し方

 本書ではまず、池澤さんの本の探し方ノウハウが詳しく解説されているところがうれしいポイントでした。日本で1年間に出版される本は約8万点だそうですが、玉石(ぎょくせき)混淆(こんこう)の本の山から本当に値打ちのあるものをどのように選び出すのか。最小限の手間で必要な本を選び出すことは「金属の精錬」に似ていると池澤さんは言います(31ページ)。役立つのは、新聞広告。また、新聞に掲載される書評、本気で選ぶならば各出版社が出しているPR誌もよいとのことです。
 もちろんリアル書店も活用できます。まずタイトルと著者名を見て、次に「帯」の文句や中身をパラパラ見ながら品定めをしていくのだそうです(62ページ)。
 そしてアマゾンや楽天を含めたインターネット書店。これは足を運ばなくて済むし品ぞろえもいいから便利だが、「この本」と決めていないと買えないというデメリットがある。
 池澤さんはリアルの古本屋とともに古書サイト「日本の古本屋」を使っているそうです。「日本の古本屋」や日本全国900軒の古本屋が参加しており、登録冊数は600万冊だとか。活用をおススメします。

2. 本の読み方

 本書のうれしいポイントの2番目は、本の読み方についての池澤さんの解説です。それは目次の活用です。小説などフィクションでは目次は重要ではないが、思想書や研究書などノンフィクションの場合、目次は本の内容全体を表しているので丁寧に見るべきだと池澤さんは述べています(84ページ)。本を読み始める前に、目次を読んで、本の構成をおおまかに頭に入れておくかどうかで本文の理解度が変わってきます。
 そして「速読」と「精読」の使い分けること(86ページ)。本の内容によって、文体を楽しみながら全体を「精読」する場合や、ざっと「速読」した後で「面白い」と思った箇所に戻って、そこだけを味わって「精読」するなど、読み方を使い分けることを池澤さんは推奨(すいしょう)しています。
 また、フィクションを読むときは登場人物の名前をメモすることが有効だと池澤さんが述べているのを読んで、とても共感しました。ユゴーの『レ・ミゼラブル』やドストエフスキーの『罪と罰』を読んだ時、登場人物の名前が覚えられず苦しみましたので。

3. インターネットと読書を組み合わせる

 池澤さんは「読書とは、その本の内容を、自分の頭に移していく営み」だとし、きちんと読んだ本は、自分が物を考えるときに必ず役に立つと述べています(87ページ)。役に立つ本が増えれば増えるほど、物の見方が複眼的になり、うまく物が考えられるようになっていく。そして、「自分なりの世界図を自分の中に構築するために必要なこと」とも述べています。

 現代社会ではインターネットによって情報があふれていますが、池澤さんは、インターネットでは1つ1つの記事も「ユニット」が小さ過ぎて、話が散漫になってしまい全体像が作れないというデメリットを指摘しています(19ページ)。だからこそ「本」、だからこそ「読書」、なのです。

 問うべき対象を確定したうえで「答え」を探しに行くにはインターネットはとても役に立つ。しかし、「問い」を立てるためにはインターネットだけでは充分ではなく、問うべき対象を確定する前の段階で、知的な構図を構築することが必要だ(20ページ)という部分が本書を貫く主張だと思いました。

「情報」「知識」「思想」を更新する

 本書の「はじめに」で池澤さんは、軽い順に1.「情報」、2.「知識」、3.「思想」という3つがあると述べ、「情報」は日付があるデータ、「知識」は「情報」がある程度まで普遍化されたもの、そして「思想」は「情報」と「知識」を素材にして構築される大きな方針だと述べています(12~13ページ)。「情報」「知識」「思想」を日々更新していくことが現代社会で生きていくためには必要で、そのための具体的な読書ノウハウが凝縮されているのが本書です。一読をおススメします。

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