速い判断・実行のメリットとは?

赤羽雄二・他 著『仕事の教科書』
(徳間書店、2019年)

 仕事で大きな成果をあげている人たちがどのようなことに気をつけているのか、ということに興味があります。本書『仕事の教科書』には、ビジネスの世界で有名な著者11人が仕事上の秘訣を公開してくれた本です。内容が盛りだくさんなので章ごとにレビューしていきたいと思います。
今回は本書に集録されている記事から赤羽雄二さんの「意思決定力 即断即決・即実行の勧め」です。
 赤羽雄二さんは『ゼロ秒思考』などの著書があり、主に経営コンサルタントのお仕事をされています。『仕事の教科書』に掲載されている赤羽さんの記事は、赤羽さんが推奨している、仕事の課題に対する素早い判断と行動のコツが紹介されています。これを読んで私が特に勉強になったのは以下の5つです。

1. A4メモ書き――書きながら考えると仕事の処理能力が上がる

赤羽さんの著書『ゼロ秒思考』でも紹介されているノウハウですが、A4サイズの紙に書きながら考えると仕事の処理能力が上がると赤羽さんは言います(219ページ)。赤羽さんが外資系コンサルタント会社のマッキンゼーに勤めていた時に試行錯誤しながら発見した方法だそうです。
特徴的なのは、1件に対し、1枚のA4用紙を使うこと、1分で書くということです。
書く内容は、頭に浮かんでは消えること、気になっていること、戸惑い、悩みなどです。書くだけで驚くほど頭の中身が整理され、消化される。気分がすっきりする。そして問題意識や疑問が生まれ、さらに深掘りするようになる。結果として洞察力がつく。このことに赤羽さんは気づいたそうです。赤羽さんは、この方法にはたくさんの効用があると言っています。たとえば、愚痴ではなく課題として理解できること。言語化することが明確に認識につながり、悩みが消える。メモが外部メモリとなって、頭の負担が減ること。自分が何となくできていたこと(暗黙知)が、自分のノウハウとして明確に認識できて、他の社員や部下への指示が的確になること、などです。

2. 速い判断・実行のメリット

 即断即決、即実行できるとどんなメリットがあるのか? これについて赤羽さんは①競争相手よりも先手を打てる、②PDCAを何度も回せる、③仕事のテンポが良くなって、仕事をするのが楽しくなる、④上司・リーダーとしての信頼度が増す、⑤上司・リーダーにつられて部下の仕事が速くなる、⑥組織全体に活気があふれてくる、という6つをあげています(228ページ)。このあたりは、赤羽さん自身の体験、コンサルタントとして携わった企業の様子から整理されたものだと思います。

3. 全体観を持てるかどうかが重要

 赤羽さんは即断即決、即実行を推奨していますが、それがうまくいくための基本条件として、進行方向に大きな穴や危険物がないことをあげています(237ページ)。つまり、素早く動いても大丈夫だと見抜けていれば、素早く動くメリットを享受すればよいのです。そのために上司・リーダーに求められるのが全体観です。全体観とは、取り組む仕事や課題の全ての道筋やプロセスを見通す力のことです(238ページ)。
 では、全体観を得るためには何が必要か? 私は経験と情報かなと思いましたが、赤羽さんは①オプションと、②フレームワーク、だと述べています(240ページ)。このことを知ることができたので、本書を読んで良かったと思いました。
①オプション:とは、取りうる選択肢を複数あげて、それを比較し評価すること。これをA4の紙に書き出します。
②フレームワーク:基本的に2×2の4マスの中に物事の度合いをマッピングすることです。縦と横の2本の軸に何をもってくるのかは案件によって異なります。2つの軸の上下と左右で、性質の大小や強弱が表すことが全体観を捉えることに役立つ、というのが赤羽さんの考えです。これを使いこなすには、慣れが必要だと思いました。

3. 書類作成、メール、会議のスピード

 この3つは企業・組織の運営では欠かせないものですが、そこを省力化するコツについて解説がありました。書類作成は、何と言ってもテンプレート化です。テンプレートとは定型的な様式です。書類の骨組みを残して、中身だけを毎回書き換えるようにする。こうすると、半分ぐらいの時間で書類が出来上がると赤羽さんは言います(253ページ)。
 メールは即返信する。メールは溜めれば溜めるほど悪循環に陥ると赤羽さんは考えています。
 会議では、議題を明確にすること。何をどこまで達成すべきかを決めたうえで会議を行うこと。日本企業の会議には、一方的に長いスピーチをする人がいたり、発言が堂々巡りをしたり、また、それを全員が我慢しで、大人しく聞いている、など、大幅に改善の余地がある、と赤羽さんは厳しく指摘しています(257ページ)。

4. スルー力

 これは少し意外だったのですが、赤羽さんは仕事をするうえで、不条理なこと、どうしようもないことを受け流すスルー力があると、即断即決、即実行のペースを維持できると述べています(258ページ)。上司からの書類の全面的な書き直しの指令、顧客の理不尽な要求などをスルーすることは、時には必要なことだということです。
 即断即決、即実行というのは難しいと思っていましたが、赤羽さんの本章を読んで、A4の紙に気になる点や選択肢を書き出しながら考えるということはとても重要だし、できそうだと感じました。

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