(高校生・大学生向け)調べて発表するスキルの入門書
林直亨 著『学び合い、発信する技術』
(岩波書店、2022年)

コロナ禍になって教育現場にオンラインが普及しました。社会人の学びとしては以前からオンラインセミナーとかウェビナーと呼ばれるものがあり、それが学校にも導入される方向になったのだと思います。そして、情報のやり取りのしかたが急速に変わってきているのだなと実感しました。今はそういう転換期なので、新しい情報のやり取りのしかたを習得しておくのは、今後のためにとてもいいことだと思い、本書『学び合い、発信する技術』を読んでみました。
本書の著者、林直亨(はやし・なおゆき)さんは運動生理学を専門とする研究者です。学びの技法(アカデミック・スキル)や発信のしかたについては林さんのご専門ではないのですが、コロナ禍で多くの研究者が専門外のことでも発信しているのを見て、本書を執筆したと「おわりに」に書かれていました(174ページ)。
本書を読んで私が特に勉強になったのは以下の6点です。
1. 巨人の肩に乗る
知的活動の基盤として先人たちの知識の集積があります。先人の知識を活用することを科学者ニュートンは「巨人の肩に乗る」と表現しました(9ページ)。Google Scholarというサイトのトップ画面にもこの言葉が記されています。読書猿さんの『独学大全』にも、このことが書かれていましたが、改めて、とてもいい言葉だなと思いました。
2. 守破離
「守破離」という言葉は芸事や習い事の基本だと聞いたことがありました。本書では、次のような茶人の千利休の詠んだ歌が紹介されていて(59ページ)、とても勉強になりました。
「規矩(きく)作法守りつくして破るとも、離るるとても本(もと)を忘るな」
「規矩」とは「規則」のことだそうです。
3. PREP法
PREP法とは分かりやすい話し方の基本だと聞いたことがありました。本書にも紹介されていました。PREPは頭文字で、P=Point(結論)、R=Reason(理由)、E=Example(例示)、P=Pointです。この順で話すと聞きやすい話になりやすいので、マスターしておきたいところです。
4. 出だしの「私は」を削除する
本書には文章を書く(ライティング)の基本も解説されています。林さんは「『私は』で始めると主語述語が対応しない文になりがち」と言います(107ページ)。さらに、「あなたが考えたことは自明」とも言っています。気をつけたいと思いました。
5. 読みながらアウトプット
本を読んだらアウトプットしようということは樺沢紫苑さんや齋藤孝さんが何度も強調していますし、本書にも書かれていました(121ページ)。
6. 一次資料に近づいて、引用する
一次資料とは、「おおもと(大本)の資料」「原典」「元データ」です。二次資料とは「一次資料の解説」「加工された資料」です。
本書では、自分の主張・意見の根拠として一次資料を引用するとよいと書かれていました(122ページ)。とてもクリアな説明で勉強になりました。
本書は、対話、プレゼンテーション、ライティング、リーディング、そしてピアレビュー(対等な立場にいる書き手へのアドバイス)の基本が分かりやすく解説されているので、高校生や大学生におススメの本だと思いました。