少子化問題をみる「フィルター」こそ問題!?

赤川学 著『少子化問題の社会学』
(弘文堂、2018年)

少子化対策の効果は?

少子化問題については新聞や雑誌などでもさかんに論じられ、最近では「保育園落ちた日本死ね!」という2016年のブログ投稿が話題になっていました。いわゆる待機児童の問題をはじめとして政府の少子化対策がうまくいかず出生率が上昇しない状況が続いており、それはなぜなのか疑問に思っていました。

地球規模では「人口爆発」

 本書の著者、赤川学氏は社会学を専門とする研究者です。本書の「はじめに」で述べられているように赤川氏の基本的な立場は「現代日本の少子化問題などというものは、宇宙や地球全体の歴史からみれば、単なる歴史の1コマにすぎない」のだから悲観的になる必要はないというものです(10ページ)。そういえば地球規模では「人口爆発」と呼ばれるほど人口が増えているのはよく知られています。

社会問題は構築される


 本書の特徴は、先進各国で論じられている少子化問題は人口学や経済学の専門家や政治家による申し立てを受けて官僚や研究所、活動家を巻き込み新聞社やテレビ局の報道によって増幅される一種の「官製(かんせい)社会問題」(70ページ)だとして分析している点にあります。これは「社会問題の構築主義」という社会学の研究方法を少子化問題に応用したものです(47ページ)。
 この「官製(かんせい)社会問題」のフィルターを通してみると、労働人口の減少による「経済成長の鈍化(どんか)」と「年金制度の不安定化」という少子化の2つのデメリットが強調される代わりに、交通渋滞の解消、環境・資源問題の緩和、少人数教育の実現、広くて安価な家に居住できることなど少子化のメリットは覆(おお)い隠(かく)されてしまいます(71ページ)。

「未婚者の増大」という要因にも着目を!


 また、少子化の要因についての指摘が重要だと思いました。それは、日本の出生率低下の要因として①未婚者の増加、と②結婚している夫婦の子ども数の減少、があるというもので、日本の少子化要因の約9割は①にあるという人口学の研究成果を赤川氏は紹介しています(13ページ)。ここから赤川氏は②のほうに焦点化した少子化対策、たとえば保育園の待機児童問題の解消を含めたワークライフバランスや男女共同参画の政策はそもそも出生率全体を押し上げる効果が薄いと指摘しています(72ページ)。そして、若者はなぜ結婚しないのかという根本的な問題に目配りが及んでいないのが日本の少子化対策の現状だということに本書は気付かせてくれます。

幅広い視野から少子化をみる


 本書は、少子化問題の議論のされ方そのものに疑問を差しはさみ、タブーに挑戦しています。より幅広い視野をもつための文献として本書の冒頭(13ページ、26ページ)で紹介されている2冊をあげておきます。1つは、高橋重郷・大渕寛編『人口減少と少子化対策』(原書房、2015年)で人口学の成果を学べます。2つ目は、100年以上にわたって少子化問題に取り組んできたフランスの状況を検討している河合務『フランスの出産奨励運動と教育』(日本評論社、2015年)です。日本以外の諸外国の状況を知ることも有益だと思います。
 ワークライフバランスや男女共同参画は、いったん少子化対策と切り離して社会の公平性や社会福祉の文脈から考えることも重要だと言えそうです。こうした論点を含む赤川氏の『これが答えだ!少子化問題』(筑摩書房、2017年)も一読をおススメします。

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