【映画『国宝』は大ヒット】でも原作を知ったらさらに面白かった話
吉田修一 著『国宝』上
(audible、2025年)

映画『国宝』が大ヒットしているようです。興行収入は歴代トップに迫る勢いです。私も鑑賞し、上映時間が3時間を超える長さはやはり堪えましたが、内容はやはり面白くて満足しました。
さて、今回、audibleで『国宝』を聴いてみました。上下に分かれており、上だけで10時間32分の長さです。私は1.5倍速で7時間で聴き終わりました。30分ずつを14日間です。『国宝』の映画とaudibleを併せて視聴して気付いたことを以下に記します。
徳次:映画では削られた熱き相棒
主人公の喜久雄は長崎の極道の家に生まれましたが、中学のとき組の抗争で父が他界し、その後大阪の歌舞伎役者・花井家で修行を積みます。映画には冒頭部分だけに出ていた登場人物で、長崎の組の若い衆の徳次(とくじ)という人物が、audible版では、この徳次が大阪の修行時代にも、その後の青年時代にも登場して喜久雄を支えます。
徳次の出番が映画版では冒頭だけになったというところに、映画版を作る段階の苦労が分かるような気がします。audible版では徳次のエピソードがかなりのボリュームで描かれていて、その破天荒さが笑え、喜久雄を「坊っちゃん」と呼んで支える熱いキャラクターです。映画の時間短縮のために、徳次のエピソードが大胆に省略されていることが分かります。それでも3時間になってしまっているところに、『国宝』の原作のボリュームの分厚さを感じることができました。
人間国宝・万菊の言葉、映画とAudibleで異なる相手
映画では、落ち目になった喜久雄が地方公演をしていたとき、人間国宝の小野川万菊が喜久雄を呼び出し、「あなた歌舞伎が憎くて仕方ないんでしょう、でもそれでいいの、それでもやるの」と声をかけ、これをきっかけとして喜久雄が復活していきます。
しかし、audible版では違いました。喜久雄のライバルである花井家の御曹司の俊介に、この言葉をかけているのです。今回audible版を聴いて、このことが一番驚きました。俊介は花井半次郎の3代目を喜久雄に奪われたことにショックを受けて消息不明になります。Audible版では10年後に発見されたとき、万菊はこの言葉を俊介にかけました。
audble版を聴いてみて、①徳次という登場人物の出番がバッサリと減っていた。②万菊が「あなた歌舞伎が憎くて仕方ないんでしょう、でもそれでいいの、それでもやるの」という言葉をかけたのは喜久雄ではなく俊介だった、ということを発見しました。映画版は、徳次という登場人物が活躍しなかったことによって、喜久雄と俊介という2人のライバル・友情のストーリーという特徴が強まりました。そして、万菊が喜久雄の復活を後押ししたという流れに切り替わった、ということが見えてきました。
audible版の下で、どのような展開があるのかを聴いてみたいと思います。
また、映画を観られた方は、audible版や原作小説もありますので、『国宝』の余韻を楽しんでみられることをおすすめします。