「赤ちゃんポスト」の成り立ちが分かる本
蓮田太二・柏木恭典 著『名前のない母子をみつめて』
(北大路書房、2016年)
「赤ちゃんポスト(こうのとりのゆりかご)」について、以前から報道されており、気にはなっていましたが実際にどのようなものなのか詳しく考えたことはありませんでしたので、「赤ちゃんポスト」を運営する熊本の慈恵病院の理事長が著者の1人になっている本書を読んでみました。
本書の著者は熊本の慈恵病院の理事長である蓮田太二さんと教育学を専門とする研究者の柏木恭典さんです。
本書を読んで「赤ちゃんポスト」の背景や実像について、これまでより少し詳しく知ることができたように思います。
設立当初はハンセン病施療院だった
まず1つ目は、慈恵病院の成り立ちについてです。慈恵病院は明治31年(1898年)に熊本市に建てたので100年以上の歴史がある病院です。しかし、設立当初は病院ではなくハンセン病患者のための施療院(せりょういん)だったのだそうです(30ページ)。それを作ったのはキリスト教系の「マリアの宣教者フランシスコ修道会」で、老人ホームや孤児院、幼稚園、貧困で医療を受けられない人のための「施療院」も作られました。蓮田さんは昭和44年(1969年)にはじめてここに赴任し、患者たちと寝食を共にし、患者のために己の人生を捧げるシスターたちの姿を見て、蓮田さんの人生観も大きく変わったということです(31ページ)。慈恵病院は、設立当初から、病気にかかった人の治療をする病院というよりも社会的な弱者を保護するという考えの強い病院だったのではないかと思いました。
ドイツ視察から
分かったことの2つ目は、蓮田さんが「赤ちゃんポスト」を設置する経緯についてです。経済的に厳しい状況にある妊婦の出産を補助する「円ブリオ基金」や「妊娠SOSホットライン」という電話相談を行っていた民間団体の生命尊重センターの活動に蓮田さんが参加しており、生命尊重センターのスタッフと蓮田さんらがドイツ視察を行ったことが日本に「赤ちゃんポスト」が設立される直接のきっかけだったそうです(44ページ)。この点、私は全く知りませんでした。
「遺棄幇助罪」にあたるのか?
分かったことの3つ目は、「赤ちゃんポスト」を作ることが法律上、遺棄幇助罪にあたるのではないかという心配を蓮田さんがもったということです(47ページ)。蓮田さんは法律の専門家に相談したのですが、遺棄幇助罪にあたるとする説と、安全な場所に預ける場合は遺棄幇助罪にあたらないという説があり、法的には「グレーゾーン」だということです。「赤ちゃんポスト」が賛否両論の立場で論じられているのは、このあたりの法的な位置づけの曖昧さにも1つの要因があるのかもしれないと思いました。
ドイツでは100箇所も
分かったことの4つ目は、「赤ちゃんポスト」を先駆的に設置したドイツでは2000年の運用開始から2015年までの間に、100箇所も設置されたということです(閉鎖されたものも含む、95ページ)。日本では熊本に1箇所あるだけですが、ドイツでは「赤ちゃんポスト」が必要だと考えられているのだなと思いました。
本書を読んで「赤ちゃんポスト」が設置されているのは日本だけではなく、ドイツをはじめとしたヨーロッパ、中国、韓国、アメリカ、南アフリカにも広がっていることも分かりました(96ページ)。なぜ、このような広がりをみせているのか、また、それぞれの国の事情などについても、さらに詳しく知りたいと思いました。