哲学者アランの幸福論の3つのキーワードとは?
アラン 著『幸福論』
(日経BP、2014年)
水木しげるさんの幸福論に刺激を受けて、これまで5冊の幸福論を読んできましたが、今回はフランスの哲学者アランの幸福論を読んでみました。
本書の著者アランはフランスの哲学者で、本名はエミール=オーギュスト・シャルティエです。「アラン」というのはペンネームです。1868年生まれで1951年に83歳で亡くなっています。フランス各地の高校で哲学教師をしていました。2つの世界大戦の時代を生きた人で、彼は新聞に短いエッセーを連載していましたが、その中から幸福に関する記事を集めたのが本書『幸福論』です。そのため本書は、93個の記事が積み重なっていますが、全体の統一性はあまり整えられていません。その点が、少しずつ読むのに向いている本だと思いましたが、連続して読んでも前後の記事のつながりがそれほど強くないので読みにくさも感じました。そんなアランの幸福論を貫くキーワードが3つあると思いました。それは「上機嫌」「ほほえみ」「楽観主義」です。
1. 上機嫌
アランは「私が道徳論のようなものを書く羽目になったら、上機嫌を第一の義務に挙げるだろう」と言います(460ページ)。また、「自分で自分を傷つけてはいけないし、大仰に言い立てて他人に伝染させてもいけない。すべてのことはつながっているのだから、人生の小さな不幸を触れ回ったり、自慢したり、大げさに騒ぎたてたりしないことだ」とも述べています(461~462ページ)。さらに、上機嫌は、入浴やシャワーや食事療法とならぶ一種の健康法だと述べています(466ページ)。このアランの考えに私はとても共感を覚えました。水木しげるさんが『水木サンの幸福論』で「私は得な性分で、つらかったことは忘れ、楽しかったことだけを覚えている」と述べておられることとアランの上機嫌に対する考え方が似ているようにも思いました。
2. ほほえみ
上機嫌の反対の不機嫌に対処する方法としてアランは「ほほえみ」を推奨します。
「不機嫌に立ち向かうとき、知性は無力であり、ほとんど役に立たない。私たちの身体のうち自分自身で制御できるのは運動を伝える筋肉だけなのだから、すぐに姿勢を変え、適切に身体を動かすことだ。たとえば、ほほえむ。肩をすくめる。こうした動作には、心配事を軽くする効果があると言われている。」(82ページ)。
また、次のようにも述べています。
「雲が行き交うように不機嫌同士が出会ったときは、まず一方がほほ笑むことだ。自分からは絶対にほほ笑まないという人は、ただの馬鹿者である。」(450ページ)
人間関係において「ほほえみ」が大事であることは私もそう思います。これからも実行していきたいと思いました。
3. 楽観主義
アランの楽観主義は、彼が生きていた時代から有名だったようで、この『幸福論』の中でもアランの楽観主義は「根拠のない期待」にもとづいているとか「わざとらしい」といった批判があびせられていたそうです(430ページ)。しかし、アランは笑っていたそうです。アランの真意は、人間の手には負えない事柄については、何も期待するわけにいかないが、人類の創意工夫によって変化をもたらすことができる事柄については、希望をもち、信頼し、望みを叶えようとすることを肝に銘じなければならない、ということにあります(432ページ)。アランが挙げる例は、火、麦、船、しつけられた犬、調教された馬、科学、希望、平和、正義などです。これらは人間が生み出したもので、望まなければどれ1つとして手に入れることはできなかっただろうとアランは言います。まず、人間は、晴れも嵐も作り出すことができる。心の中に、自分のまわりに、世界に。たしかに、こういう考えは「楽観主義」であって、それを批判する風潮もあることをアランは承知しながら、やはり「楽観主義」こそ重要だと主張していたのです。こういう人がいたことを、本書を読むまで私はあまり知りませんでした。
アランがキーワードにした上機嫌やほほえみ、そして楽観主義を大事にして、生活の中に取り入れていくことができるといいなと思いました。