やっぱり気になる! 上司の「忙しいオーラ」

林健太郎 著『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』
(三笠書房、2022年)

 コロナ禍を経てリモートで働く機会が増えたこともあって企業などでは社員同士のコミュニケーションのために、人の話を「聴く」ということの重要性が叫ばれているようです。菊岡正芳さんの『リーダーは「聴く力」が9割』に続いて、「聴き方」に関する本を読んでみました。
 

 本書の著者林健太郎さんはバンダイやNTTコミュニケーションズなどに勤務後、人材育成の分野に進み、現在はリーダー育成家として活動されています。コーチが対話によって本人の能力を引き出すコーチングを専門とされています。本書はコーチングの技法の1つとして重視される「傾聴力」について解説した本です。

 「仕事なんだから、文句を言わずにやってくれよ」と言えば済む時代は1990年代を堺として終わっているというのが林さんの考えです(14ページ)。上司と部下がきちんとコミュニケーションをとれる組織が伸びていく時代だからこそ、リーダーの「傾聴力」が試されます。
 本書を読んで特に勉強になったのは以下の4つです。

1. 要チェック――「忙しいオーラ」を撒き散らしていないか?

 上司の「傾聴力」は、普段の何気ない会話の中で発揮されるのがよいというのが林さんの考えです(99ページ)。数ヶ月に1回程度「1オン1ミーティング」が設定されている組織も増えていますが、そのような「かしこまった面談」だけでは部下の話を聴く回数が足りません。もっと会話の頻度を高めて、いかに部下の方から話をしてもらうかが大事なのですが、上司が「忙しいオーラ」を撒き散らしていると、部下は遠慮して話しかけるのを控えるようになります。眉間にシワを寄せて、いかにも忙しそうにしていないか、上司は自分の行動をチェックすべきだと林さんは述べています(100ページ)。これはとても重要だと思いました。
 反対に、普段から気さくに話を聴いてくれる上司に対して部下は好感をもってくれます(20ページ)。林さんはこのことを、数秒で診察を終える医者より、「患者の話をよく聴いてくれる医者」のほうが好感をもたれることと似ていると述べていますが、とても納得しました。

2. 上司は「事実情報」と「それ以外」を分けて聴くとよい

 上司が部下の話を聴く時の注意点として、「事実情報」と「それ以外」を混同しないことが重要だと述べられており(80ページ)、とても勉強になりました。「先方の担当者から見積もり依頼がありました」は「事実情報」で、「先方の担当者はこちらからの提案に乗り気だったと思います」は「それ以外」です。「それ以外」は部下による「見込み」や「推測」がベースになっているので、上司の業務上の判断としてはまずは「事実情報」が優先されます。

3. 部下の話の「時制」に注目する

 もう1つのコツは、「過去」「現在」「未来」という「時制」に注目することで、すでに起こったことなのか、現在進行中なのか、これから未来の予測や希望なのかということも判別できます(81ページ)。部下から、これから将来の方向性が伝えられたのであれば、上司はそれに向けて現在できること、やるべきことを見出して判断したり、伝えたりしていくことが重要になります。林さんは「過去」「現在」「未来」というのは、正確な分類よりも「ある程度の区分」でも構わないとも述べていますが(83ページ)、部下との会話の「時制」に注目するということを、私は今まで意識したことがなかったので、重要なことに気付かされたように感じました。

4. 「合いの手」も傾聴テクニックの1つ

 本書の内容で、最も具体的で実践的だと感じたのは第4章に書かれている傾聴の10個の手順です。1つ目は、部下に「静かな時間」を提供すること、2つ目は、部下の話の「復唱」、となっていますが、私は特に4つ目の「合いの手をいれてみよう」というのが興味深いと感じました。「合いの手」は、昔なつかしい杵と臼を使った餅つきのイメージで、部下が餅をついたら、上司がさっと手を入れて餅を返して手を引く感じがよいと林さんは述べています(136ページ)。そして、合いの手を入れる言葉が①「そうなんですね」、②「というと」、③「ほかには」、④「もう少し詳しく」、という4つ示されています。①は承認と促し、②は背景情報を聴く、③は話の拡散、④は話の深掘り、の役割があります。こういう言葉を私は今まで意識して使ったことはありませんでした。とても勉強になりました。

 本書は、部下とのコミュニケーションを改善し、業務改善にも活かせるような上司の傾聴力が、とても具体的に解説された本です。企業などさまざまな組織のリーダー層の方に役立つ本だと思いました。

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