震災後の傾聴ボランティアの経験を伝える1冊

金田諦應 著『傾聴のコツ』
(三笠書房、2019年)

 「傾聴」は難しいと感じています。単に「聞く」よりも深く「聴く」ということができているような気がしません。相手の話の途中で、自分がしゃべりたくなってしまうことが多くありますし、聞いている間、どこを見ていいのかわからなくなってしまいます。そこで「傾聴」をテーマとした本書を読んでみました。

 本書の著者、金田諦應さんは曹洞宗のお寺の住職をされいるかたです。また、日本臨床宗教師会副会長、日本スピリチュアルケア学会にも所属されているそうです。
本書を読んで勉強になったのは以下の4点です。

1. 東日本大震災後の傾聴ボランティア

 本書を読んで、著者の金田さんが2011年の東日本大震災の後に被災地に出向いて傾聴ボランティアの活動をしていた、ということを知ることができました。このような活動をした人がいたということを、これまで私は知りませんでした。
 考えてみれば、お寺の和尚さんはお葬式に出て、お経をあげることがお仕事のひとつですが、東日本大震災の被災地ではものすごい数のお葬式が行われたことが想像されます。和尚さんは、人の死というものに向き合うお仕事だということに改めて気付かされました。
たいへんな数の死と遺族に向き合うなかで金田さんが「傾聴」し、そのコツをつかんでいったのではないかと想像されます。金田さんは次のように述べています。

被災者の方々は、悲しみや苦しみで心が固まってしまっています。「これからあなたの話を聴きますよ。心のケアをします。さあ、どうぞ話してください」ちいわれても何も話すことなどできません。
だから自分は、「暇げで、軽みのある佇まい」でいようと決めました。忙しげに立ち回っている人に、誰も自分のつらい心の内を話そうとは思いませんから。」(34ページ)

これが傾聴するときの心構えとしてとても大事なのだと思いました。

2. 傾聴のコツは「共感」にある

 本書の第1章のタイトルは「傾聴とは、相手の話に『共感』すること」です。これがとても難しいと思うのですが、本書では「わかるよ」ではなく「伝わったよ」と返すのがよいと書かれていました(41ページ)。「わかるよ」と言われると相手は「そんなに簡単にわかるの?」と感じてしまうということです。
 金田さんの経験からすると、相手との距離が縮まるのは「わかるよ」ではなく「伝わったよ」という言葉だそうです。覚えておきたいと思いました。

3. 自分の会話を録音してトレーニングせよ

 金田さんが取り組んでおられるグリーフケアやスピリチュアルケアでは、専門訓練として会話記録をもとに、仲間同士で検討し合うということを継続的に行うそうです(187ページ)。これは、自分がしている会話を録音して、自分を客観視して、自分の「思考のクセ」を知ることが傾聴の力を高めるという考えにもとづいています。

4. 話をいったん打ち切ることもある

 私は知らなかったのですが、傾聴をする際には話をいったん打ち切ることもあるのだそうです(188ページ)。それは次のような場合に聴く側の心の安定を保つためだと金田さんは述べています。たとえば、相手が理不尽なことを訴えてきた場合です。それを聴いた自分はどうしても、感情的になりがちです。しかし、理不尽な話の中にもなんらかのストーリーがあることがあり、その理不尽な話の奥深くに到達できるかが重要になります。
 しかし、奥にあるストーリーを探ろうとして一緒に迷路に迷い込んでしまうことがあり、そうならないために、そして聴く側の心の安定を保つために、話をいったん打ち切るのだそうです。

話の出口がまったくわからないまま迷路の奥まで一緒についていかないことは、聴く側の心の安定を保つために必要なことなのです。だから、なんでもかんでもわかったような顔をしていつまでも付き合っていてはいけません。どこかで話を切り上げなければいけないタイミングがあります。

このように打ち切るという考えを私はいままであまり意識していなかったように思います。

 本書を読んで、傾聴というものは、やはりそう簡単にはできない深い技術だと思いました。でも、共感しつつ、打ち切ることもある、ということが分かって、とても勉強になりました。

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