(ジブリ)『千と千尋』制作時の「剣豪の名勝負」とは?
鈴木敏夫 責任編集『スタジオジブリ物語』
(集英社、2023年)
500ページを超える、内容盛りだくさんな本書『スタジオジブリ物語』のレビュー第11弾です。今回は『千と千尋の神隠し』制作時に宮崎駿監督とバトルしたアニメーターについてです。
『千と千尋の神隠し』では、神々が疲れを癒やす宿屋「油屋」の内部の様子や竜になったハクというキャラクターの動きなどが緻密に描き込まれていたのが印象的でした。本書を読んで、あの迫力ある画面は、宮崎監督と安藤雅司(作画監督)さんのバトルから生み出されたのだと分かりました。
そのバトルとは、深夜12時頃に宮崎監督が原画のチェック作業を終えて帰宅した後、作画監督の安藤さんが朝までかけて修正をしたというものです(235ページ)。
この安藤さんの行動を知った宮崎監督は、最初我慢し、やがて戦いを挑み、これに安藤さんが抵抗して、激しい火花が散っていたそうです。
なぜ、ここまで安藤さんは強気だったのか? それはプロデューサーの鈴木敏夫さんの後押しがあったから。そして、その後押しの始まりは『もののけ姫』制作後に安藤さんと鈴木さんの間で交わされた約束があったのだそうです。
1997年公開の『もののけ姫』制作後、作画監督だった安藤さんは「理想とするアニメーションのスタイル」の違いを理由にスタジオジブリを退職することを申し出たそうです。
しかし、鈴木さんは、安藤さんの腕を高く評価しており、彼を引き留めるため、次回作ではキャラクターの芝居を安藤に一任するという約束で、安藤さんはジブリ残留を決めたという経緯があったそうです(234ページ)。このことを私は全く知りませんでした。
安藤さんは当時30代で、宮崎監督は還暦に近い年齢だったそうです。この2人のバトルを本書では「剣豪の名勝負」と表現しているのが印象的でした。
また、プロデューサーの鈴木さんに、それほどまでに高く評価されていた安藤さんという人はすごい能力の持ち主なのだなと思いました。