教職の魅力とは?(教師に憧れる人はこの本を読もう!)

堀裕嗣・宇野弘恵 著『教職の愉しみ方 授業の愉しみ方』
(明治図書、2023年)

 日本の教員は多忙だという話題をよく耳にします。授業だけでなく、テストの採点、運動会や文化祭の準備、問題のある生徒の指導など、大変そうな仕事だなという印象はあります。しかし、そんな中でも楽しみを見出して情熱を注いでおられる先生がたもおられることと想像します。そこで今回は、教職に愉しみ(たのしみ)について語っている本書を読んでみました。
 本書の著者、堀裕嗣さんは北海道で中学教師をされています。国語がご専門です。宇野弘恵さんは北海道の小学校教師をされています。
 本書は、両者によるリレー形式の論文と対談が収録されています。テーマは、子どもともかかわり、国語や道徳の授業づくり、教材開発などについて、お二人が日頃どのような工夫をされているのかが述べられ、そして教職の愉しみが語られています。
 本書を読んでまず感じたのは、教職というのは決まりきったルーティーンをこなしているだけでは楽しめず、いろいろな工夫をこらすことによって楽しめるようになるのだということです。お二人は、実に多くの工夫をこらしてお仕事をされているということが本書全体を通じて伝わってきました。
なかでも私が特に勉強になったのは以下の3点です。

1. 咲く花を愛でる授業展開

 宇野さんが述べておられますが、授業を行っている時、生徒が想定外の発言をすることがあるとする。その発言に乗っかってしまうと、「出口が見えない」「ぐちゃくちゃの」「思い付きの」話し合いが行われる危険がある、と教師には感じられるため、教師はそれを受け流すか、強引に自分のもっていきたい方向にもっていく傾向があります。これは若い教師ほど、そういう傾向があるようです。
宇野さんは、このような授業展開を「咲く花に目もくれず平坦な道をただただ歩くような授業」と表現しています(43ページ)。この表現は秀逸だと思いました。
 これとは反対の「咲く花を愛でる授業展開」とは、生徒から湧き出た疑問を解決できるような授業で、そこにはワクワク、ドキドキ、ハラハラがあります。
 ただ、それを行うためには条件があります。それは、①授業の目的地を明確に定めること、②目的地に辿り着くいくつかのルートと、絶対にはずせないポイントを頭に入れて授業を行うこと、です。これを実現するのは簡単ではないでしょうが、それを目指して工夫を重ねることを宇野さんはされているのだと思いました。

2. 自主教材と教科書を組み合わせる

 国語にも道徳でも教科書があります。それをそのまま解説すれば授業になると考えていると教職を愉しめないということが分かりました。教科書に出てくる読み物に欠けている点を、自分オリジナルの教材で補完したり、対比したりすること。これがポイントだと気づきました。
 本書で堀さんが述べていいますが、教科書の読み物が男性の視点で書かれていると感じれば、女性視点を補うような読み物を教材として組み合わせる。大人の視点が強く出ている読み物ならば、授業を受ける子どもたちに近い年齢の視点が出ている読み物を組み合わせる。あるいは、100年前の時代状況が強く出ている読み物ならば、最近の状況が出ているような読み物を組み合わせる。こうすることによって、現実味のある授業を展開できるようになると堀さんは述べています(99ページ)。

3. 死角に気づいて成長する

 宇野さんも堀さんもベテラン教師としてご活躍され、授業の達人とお見受けしますが、「完成された」とは感じていないと言います(159ページ)。「確固とした自分」「変わらない自分」を確立したとは考えず、常に自分を更新できることに喜びを感じておられるそうです。
 それは自分に「死角」があることを意識していることが大事だと堀さんは述べています(160ページ)。そこで、他の先生に自分の授業を積極的に公開してコメントをもらうということも嫌がらない姿勢が大事になってきます。若手の教員は、自分に「死角」があるのは当然で、それを指摘されることも恐れない姿勢が教職を愉しむことにつながっていくということなのではないかと思いました。
 世の中にはいろいろな職業があるので、「教職に魅力がない」と敬遠するのも自由ですが、本書を通じて堀さん、宇野さんは教職の愉しみ方のコツを存分に披露してくれていると思いました。

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